このレビューはネタバレを含みます
肝心の説明シークエンスでうとうとかましたので事情を推測しながら観るハメにはなったが大体平気でした。
弱者の地獄連鎖としか言いようがなく、観ていて辛くなってくる。
現実はほぼ全編手持ちで、常に不安定。対してミュージカル(空想あるいは白昼夢daydream)は固定で安定している。空想の力。
しかしミュージカルのシークエンスも、どこか監視カメラを思わせるような異様な画角が続き、ミュージカル世界を隠し撮りしているかのようだった。セルマの世界はセルマにしか真の姿として現れないからか。
視界と環境。“the dark”のなかでは踊るしかできない。ミュージカルは踊る。されど進まず。現実の時間と、映画的時間の折り合いはつかない。
ラスト、「最後から2番目の歌」と共に落ちる床。クレーンで動くカメラ。セルマの現実は失われ、手持ちの必要がなくなる。あるのは終わった処刑という硬質な現実、という。
ミュージカルは嫌いではないが得意でもないので身構えていたが、ミュージカルの狂気をこれでもかというほど浴びせられ、驚きに満ちていた。ミュージカルは狂っているということ、そして狂気しか現実からは救われないということ。