ダイナ

ダンサー・イン・ザ・ダークのダイナのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

個人的には目をグッと瞑った時の感覚っぽさを思うオープニング。まず印象付けられたのはカメラワーク。カメラが揺れる揺れる。まるでその場にいる1人がカメラを持って撮影しているようなその映像は世界観を現実的に感じさせます。セルマの現実をやり過ごすテクニックとして現実の音(列車の線路の継ぎ目を通った時?の音良かったです)から空想のミュージカルを組み立てるという設定は見応えがありました。現実逃避のアプローチはいくつかありますが、セルマのキャラに則ったこの設定は本作をダークなドラマから一癖ある異質なミュージカル映画へと昇華していて、ミュージカルシーンの人物の動きの統一性や歌声の迫力、またセルマの状況によってミュージカルの雰囲気が一変する様子も興味深いです。

失明の予兆が観ている側の予測を嫌な方向に膨らませるという展開の運び方がとても上手いです。演劇練習や仕事作業中の不調であったり、プレスに二枚入れたら故障するだとか、缶に金を入れる所を目撃されるだとか、ちゃんと回収してくれる嫌らしさも興味の引きを上手く作り出しています。

冒頭でカメラワークにより現実的とは言いましたが、展開はやっぱり露骨に悪い方へ悪い方へ進むなあという作為的な匂いを感じなくもないです。出来すぎたバッドルート進行というか。自転車買う余裕も無いって言ってるセルマに金無心するビル、お前さぁ頼る相手ダメ元すぎない?と言いたい。しかしそれが最悪にもファインプレーで実際は貯蓄して家に貯めていたと。ビルが一気に缶から金出してんのも「いや少しずつ抜けよ」と自分の中の悪魔が突っ込んだりしますが、担保金の額が相当だったんだろうと勝手に納得。がしかしその後の「金持って行きたきゃ俺撃てよお!」という意固地な殺人教唆的な自殺的意向。ビルのほんの少しの良心がセルマへの正当防衛をさせなかったのか?と考えるもコイツに良心のカケラはねえ。死を覚悟してまで守りたい妻・世間体なのか?妻の浪費は指摘できないけど弱視の近所さんの金はパクって自分は被害者で人生を終えても良いというその覚悟。ビルの背景を妄想して補完するのもできなくはないですがぶっちゃけ掘り下げて欲しい。作中に盛り込むのは邪魔であれば設定資料とかでも良いんでこの刑事の思考回路教えてくれ。ジーンに心配をかけたら目の不調が加速してしまうから貯金の事は言うな、とセルマ。母親がご近所さん撃って死刑確定の時点で最大のプレッシャーかかってない?とも思いますが自分の身体的な不安が視力に影響及ぼすという解釈でOKですか。ラストのジーンの手術成功、ここまでどん底に落としておいて少しの希望もめちゃくちゃ作為的に感じます。その場しのぎの「気休め」だった方が個人的に納得感が強いです。ただあそこで手術成功を知ることで最後の歌(正確には最後から2番目の歌)に繋がるんでまあ〜よし!

作為的って言葉ばかり使ってしまいましたが、それでも「こんな世界全くあり得ねえ!」と突き放す気持ちにはならないのは、セルマ自身の思考が微妙に複雑な背景にあります。遺伝を知っていて産んでしまったという負い目や、秘密の共有は何があってもバラさないという心情。セルマの純粋な人間像が泥沼に突き進んでいく様、「真実を明るみにしない」姿勢に納得させてきます(腑に落ちない気持ちももちろん抱えてはいますがね!)。そんな彼女だからキャシーやジェフのような味方も側にいてくれたのでしょう。

作中の年代とかアメリカの制度に明るくないんですが、死刑判決すごい早いなあと思いました。つーかセルマ大金は銀行に預けようぜと。銀行への交通料とか時間の捻出とか難しいのはわかるけども。「サイコ」とか「素晴らしき哉、人生!」でも刻まれた金の運搬・保管場所の重要性が身に染みますね…。
ダイナ

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