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悲しみのミルクのcamusonのレビュー・感想・評価

悲しみのミルク(2008年製作の映画)
4.4
冒頭。暗い画面の中、
女性が口ずさむ子守歌のような歌が流れてきます。
少し油断しながらも、字幕の歌詞を追っていると、
少しずつ不穏な内容になっていきます。
更に注意を傾けると、
♪目の前で夫を殺され、
夫から切り離したナニを口に突っ込まれつつ犯された
ナニは火薬の味がして苦かった♪
というような相当不穏な内容が混じってきます。

老母が病床で内戦時の自分の経験を唄っていたのでした。
その後すぐに老母は娘の前で息を引き取ります。
母の恐怖の記憶を、母乳を通じて受け継いだ娘が主人公です。
母親と同じ目に遭わない自衛手段として膣内にジャガイモを入れています。

娘が暮らす貧民街(難民街)の住人は原住民の血が濃いのですが、
この娘は端正で精悍な独特の魅力のある美人です。

娘は亡くなった母親の埋葬費用を工面するために、
リマの街の白人音楽家のお屋敷でメイドとして働くことになります。

必要なお金を稼ぐまでの娘の周りの世界を追うことで、
下層から見たペルー社会(人の営み、社会構造の歪み、内戦の傷などモロモロ)を、
ゆったりとした流れで丁寧に描き出していきます。
静かに深く、何とも言えない悲哀が心にしみ入ります。


これまでペルーの気候風土などあまり考えたことがなかったのですが、
映像を見ると結構ショッキングです。
貧民街はリマの街から坂を登った丘陵部にあるのですが、緑が全く存在せず、
背後の山々もすべてはげ山で自然の緑が見られません。

リマの気候を調べてみると、東京より夏涼しく冬暖かく、
曇りが多く湿度は高いが、雨がまったくと言っていいほど降らないようです。
(年間降水量:30mm程度、平均温度:18℃、平均湿度:87.1%)
砂漠なのに空がスカッと抜けずにどんよりしているのが
停滞感を助長します。

貧民街の緑のない埃っぽい殺伐とした景色が、
植木の緑で覆われたリマの街の屋敷と対照的です。
これが最後のシーンを引き立てています。
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