クロスケ

しとやかな獣のクロスケのネタバレレビュー・内容・結末

しとやかな獣(1962年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

【再鑑賞】
ワンシチュエーションとは思えない、縦横無尽で変幻自在なカメラワークが、一癖も二癖もある登場人物たちの、醜くも滑稽なやりとりをスタイリッシュに切り取ります。

編集の切れ味も鋭く、クローズアップを差し込むタイミングはほぼ完璧です。中でも、伊藤雄之助演じる父親が「昔のような貧乏生活に戻りたいのか!」と声を荒らげた直後の家族4人の思い詰めた無言の表情を捉えたクローズアップは素晴らしい。

劇中、登場人物たちはのべつ幕なしに言葉の応酬を繰り広げているのですが、そんな彼らがぴたりとその口を閉ざしてしまう瞬間がたびたび訪れます。それは彼らにとって不吉な出来事の前兆なのですが、その時には決まって彼らの物言わぬ、ただ極めて雄弁な顔が映し出されます。

映画は母親役の山岡久乃のクローズアップで締めくくられるわけですが、これが凄まじい。生気の抜けたような表情が、最後の最後で何かを諦めたかのような表情に変わる瞬間、ゾクゾクと背筋が震えるような感覚を覚えました。

これには、否応なしに傑作の一語を呟かざるを得ません。
クロスケ

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