みかんぼうや

しとやかな獣のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

しとやかな獣(1962年製作の映画)
4.5
うわ~!なんじゃこりゃ~!噂に違わぬ面白さ!理性に訴える巧妙で分かりやすい脚本と感性を刺激する奇天烈でありながら日本的芸術性の強い演出。シュールなようでエンタメ的。非現実的なようで人間の底なしの欲望を描くリアリズム。紛れもなく邦画史上屈指の痛烈なブラックコメディ。

元海軍の父親は極貧生活脱却のために、息子に会社のお金を横領させ、娘を有名作家の妾にして貢がせる。そんな家族に何の異を唱えることなく献身的に支える母親。そんな詐欺家族を取り巻く物語は、そんな家族を凌駕する自らの“女”を武器にした“しとやかな獣”の登場により、さらに欲望の渦を深めていく・・・

舞台はこの家族のアパートの部屋のみ。約1時間半、一切場面は変わることがない。しかし、その事実を全く感じさせない、脚本とテンポの良さ。大好きな森田芳光の「家族ゲーム」を思わせる違和感の塊のような家族。父親も息子も娘もまともじゃないが、そんな家族を温かく冷静にサポートする母親が一番まともそうで実は一番ヤバい。そんな変な家族の会話を聞いているだけでグイグイ引きつけられるのに、そこに登場する“しとやかな獣”のエグさ。そして、真面目に生きちゃ馬鹿を見るという、なんとも皮肉に溢れた物語の展開。

しかし、面白いのはその話の展開だけではない。なんですか、あの能の謡(うたい)と囃子(はやし)をバックミュージックに、団地のベランダで夕陽を背景にツイストダンスを踊り狂う画は!?シュールなの?奇天烈なの?アーティスティックなの?あんな強烈な画、一生忘れられないですよ。

その他にも、幾度となくやってくる、あまりにもユニークで吹き出しそうなのか感動なのか、もうこんがらがってよく分からない感覚。ただ、それに本能的な何かを刺激するとてつもない興奮が体の奥底から呼び起こされたのだけは間違いない。

やはり、この作品のユニークさと可笑しさと凄さを私の稚拙な文章で語るのは不可能だ・・・とにかく、これほどまでに「たくさんのレビュアーさんに観ていただいて、皆さんがどのように感じてどんなレビューを書かれるのかを読んでみたい!」と思う作品はなかなかありません。

ジャケ写だけ見ると、ただの大人のエロ映画っぽく見えて敬遠されそうですが侮るなかれ!ぜひ、この独特な感覚を楽しんでください!皆さんのレビューをお待ちしています!
みかんぼうや

みかんぼうや