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ビフォア・ザ・レインのhasseのレビュー・感想・評価

ビフォア・ザ・レイン(1994年製作の映画)
4.2
Time never dies
The circle is not round
(時は死なず 巡ることなし)

1991年、マケドニアがユーゴから無血で独立を達成した数年後に製作された本作は、三部構成の各パートをメビウスの輪のような円環構造にすることによって、民族間の憎しみや暴力、そして死の不毛な連鎖をダイナミックに描き出している。

第一部で射殺されるアルバニア人少女も、第三部で射殺されるマケドニア人写真家も、同族によって殺されてしまう。民族間の揉め事が火種となって、その結果同族を殺す羽目になる虚しさ、やりきれなさを描いたところが、本作の秀逸な点だ。

歴史は繰り返す的な円環構造を用いておきながら、一方で、
時は死なず、巡ることなしというキーフレーズを頻出させるのは、どういうことか。憎しみや暴力の繰り返しという現象はたしかにあるが、それはあくまで俯瞰的な見方であって、その結果としての誰かの死や破壊は一回起こったら取り返しのつかない、唯一無二の出来事である、ということか。

時間は止まることはないが、巡りまた戻ることもない不可逆のものである。一度銃が火を吹けば、取り返しのつかない事態になる。
シンプルがゆえに普遍的で核心的な警鐘を、マケドニアという小国から鳴らしたこの映画は、旧ユーゴの複雑な民族問題や普遍的な紛争問題を世界中の人々に考えさせる名作。

第一部のまるで中世のような風景には見惚れるばかり。切り立った山岳地帯、教会、僧侶の黒装束、美しく輝く月と星。メガネと銃が出てこなかったら現代に見えない。
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