ふじたけ

ファウストのふじたけのレビュー・感想・評価

ファウスト(1926年製作の映画)
4.5
35mm、伴奏なし。観客の物音が響く完全なサイレント。
 過剰な映像技巧と演技で溢れかえるこの怪作を見れば、現代のドラマがつまらないと言われる原因は、過剰な演技や演出にあるのではなく、色と音の氾濫、そしてなに映像に対する自信と信頼の欠如にあることが分かる。
 ムルナウのファウストは-この映画に限らず過去の偉大な映画は、全てのショットが映画としての強度を持つ。
 ハリボテかと思う魔物たちは煙幕と照明によって地獄の禍々しさを帯びる。セット空撮は、夜の街を巡り、山河や黄金の草原を一つなぎに万華鏡のように映し出す、その最中一瞬映る漆黒のマントのひらめき。大勢のエキストラが登場する広大なセットでは、熟練の照明と絶妙なアングルによって、画面には複数の階層に分かれて、壮大な運動が映し出される。
 派手なシーンのみでなく、普通のシーンでさえ尋常ではない美しさと華麗さを持つ。ただ淡々と的確に目の前の出来事を、カメラを信じて固定で撮れば良いのだ。技巧にこっただけの映画は下らないお遊びだ。巨匠とは、普通のシーンを普通に、普通以上に撮れる人間のことだ。(もちろんそれは照明技師や撮影、エキストラのお陰である)

 ストーリーは正直破綻している気がするが、それでも、記憶が現在と重なり、炎で2人が重なる決定的な瞬間が、そんな瑕疵を忘れさせてくれる。最後、悪魔より残酷にみえる天使が、ねっとりと浮かび上がる「LOVE」を携え、全てを破壊する。突如としてスクリーンは闇に包まれ、フィルムのノイズが一瞬走った後、プツリと映画は終わる。
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