デニロ

誘惑者のデニロのレビュー・感想・評価

誘惑者(1989年製作の映画)
3.5
冒頭、草刈正雄が椅子に座り相対する男が自分のことについて話している。どこかで見たような。NHKのドラマ「モンローが死んだ日」でも同じ精神科医を演じていた。尤もNHKでは偽医者だったが。鈴木京香を幻惑させる役どころ。わたしは佐津川愛美が見たかっただけなのだが。本作の長崎俊一の演出はスカしているなと感じていたのだが徐々に・・・・。

草刈正雄のクリニックで受付をしている女子。実は草刈正雄の大学の恩師の娘でステディな関係にある。そんな背景などどうでもいいのだが、演じている女優は誰だったっけとグルグル頭を巡らせる。1989年の公開。ゲジゲジ眉。30年前の作品で、この女優はいまや第一線にいない、となるとなかなかに難しい。

秋吉久美子がクリニックを訪れ、草刈正雄に対峙するやすぐにその素性が分かってしまうのは興醒めだ。それを後押しするような翌日の謎の電話主の声。ここで気付かないのは草刈正雄だけ。でも、物語の核心はそんなことにあらず、ドンドンずれ込んでいく。

草刈正雄が秋吉久美子の素性を知るやにやりと笑みを浮かべ、さらに深く接していく様は精神科医としてなのかそれとも。

この辺りで先の女優が原田貴和子と思い出す。原田貴和子が秋吉久美子と接するや妄執に取り付かれてしまう。熟れて腐り始めた秋吉久美子の囁きの魔術が妖しく輝き、原田貴和子を手繰り寄せていく海の夜は美しい。ここからは原田貴和子の独壇場でもはや脚本も彼女の心情などすっ飛ばし、観客の度肝を抜きます。そして、草刈正雄の再登場。精神科医としてギリギリの線を守るのだが、原田貴和子の変貌を見てしまえば心身は崩れ去るばかり。きらりと光るナイフに蕩けます。そして、屋上のコカ・コーラの宣伝灯の不気味さ。50年代のフィルム・ノワール。

それからの秋吉久美子、草刈正雄、原田貴和子、淫靡な関係の予感。インモラルな石橋蓮司の誘いは草刈正雄のからだに火を灯したのかもしれない。

1989年製作公開。脚本中島吾郎。監督長崎俊一。
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