るる

おおかみこどもの雨と雪のるるのネタバレレビュー・内容・結末

おおかみこどもの雨と雪(2012年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

手塚治虫の『バンパイヤ』をほんのちょっぴりだけ連想したりしなかったりして。

いいなと思う瞬間もあるのだけれど、美化されすぎた部分がどうしてもきになる…美化というか、漂白されている、なかったことにされている、と感じて、扱っている題材との齟齬を思う。

社会からのはみ出し者について描いているわりに、肝心の、母親のしんどさだったり田舎のいやなとこが、描かれないというか美化されているというか、老いが、ないことにされているのは本当に残念というか…危ういよね…

娘の雪による、母についての回想という形をとっているから、母は常に若く美しく、辛さに鈍感で弱音も吐かず、という美化された存在で構わないのかもしれないけど、

花が、雨を探して、山を探索するシーンでようやく、土に汚れてボロボロになるんだけど、それがなんだか、とってつけたような描写に思えて。花の取り乱しかたが今までになく、無謀で、それくらいの緊急事態なんですよ、という演出に見えて、白けてしまった。

せっかく田舎で、ひとの暖かさに触れて、ひとの輪の中に馴染んだ描写があったんだから、誰かに相談しようとするんだけど秘密がバレることを恐れてできない、というような描写がワンクッションあっても良かったのになって。そしたら、学校で、自分から秘密を打ち明けることができた雪サイドとの対比にもなったのになって。

雪が、母から聞いた話を語ってる形だから、山中の捜索にあたって第三者が介入していないことで、雨失踪の真相は花にしかわからないという事態にもなっていて。なんだかしっくりこない。意図してのことなのかがよくわかんなかった。

身寄りのない学生の身で無計画に子供ふたり作って、でもそれでも「彼」のことは神様みたいに思い続けていて、恨み言ひとつ言わず、ろくに写真も残っていないから免許証の写真を遺影代わりにしていて、って、

ものすごいリアリティというかディティールがあって、ある意味、ものすごい普遍的な女像で、蝶々夫人とか…ハーフの子を抱えてるって意味でも、ワケありの外国人のの子を産んだ女、って感じがものすごくして、

こういう母親を複雑な思いで見つめながら成長する子供心、このへんが漂白されてるように思えるのも、変な感じする一因かな…

「彼」←花←雪、に向けて、ネガティヴな感情は排除された美化のまなざしが向けられた上で、語られてる物語なわけだけど、どうも雨が範疇外にいるんだよな…巣立ち、子離れの話とはどうも捉えられなくて、うーん…

語り手の雪にとって、弟の雨がどんな存在かが全然伝わってこないから、変な感じがするのかもしれない。

「彼」がどんなひとだったかは花しか知らないし、雨失踪の真相も花しか知らないし、彼らはまるで最初から存在しなかったようで、でも雪は紛れもなくおおかみおんなとしてこれから人に紛れて成長して暮らしていくわけで、なんだろう、

こういう言い方は語弊があるかも知れないけれど、社会に馴染めずに、馴染むことを諦めて、もっと言うと、どことも知れぬ彼岸へと行くことを選んだひとは美化されて神格化されるけど、じゃあ社会の中で正体を隠して実生活を送っていかなきゃいけない雪は…理解者がいるから大丈夫ということなんだろうか。

おおかみおとこという存在を寓話的に扱ってるにしては半端だなと感じてしまうんだよな…

結局、男の子の育てかたはわかりませんでした、というような話になっちゃってる気もするしな…

細田監督と高木正勝という作曲家とのタッグは強力だと思うし、特に、背景の美しさには圧倒されてしまうんだけども。

子供の描写といい、人の描写といい、上手いなって思うところはたくさんあるんだよ、宮崎駿に負けず劣らず児童文学の精神性を受け継いでる(どっちかというとヤングアダルト小説寄りだけど)とも思うんだけど、でもなんだろう、自然の描写、人の描写、家族の描写が、全て、憧れに基づいてるあたりが、なんか、なんだろう、うーん…

ネガティヴな感情をもっと見せて欲しいのに、見せてくれていいのに、隠されていて、でもチラついていて、チラついているにもかかわらず、感動とか家族愛という言葉で観客に消費されているあたりに、それで良いのかなあって、不安を擽られるのかもしれないな…

誰かの辛さは誰かの感動のためにあるわけじゃないんだよ、監督がそれで良いならそれで良いけど、と思ってしまって…うーん…

辛さを乗り越えることをハッピーエンドとして描かなくていい、辛さを否定しなくていいから、辛さは辛さとして抱えていかなくちゃいけないひともいる、それはわかるから、だからこそ、隠さないで、なかったことにしないで、と思う。どうも危うさを感じてしまう…売れる商品にする為に無理してる感じがする…

思春期の少年少女をわりと真っ当に描けるひとだとも思うので、今後の作品に期待かなあ、まだ四十代とか、若い監督だよね…宮崎駿監督がナウシカつくったのが四十代とかじゃなかったっけ、それを思えば、まだまだこれからだよなあ…という気もする

ボーイミーツボーイの友情をテーマにした作品をもっと見たい…かな。

2018.715.
ワンオペ育児つらい映画として観るとホントすげえつらい…大学を休学したのか退学したのか、どうやって生計立ててたかを知りたかったなあ、やっぱり…
花の愚かさって、他者に頼れなかったことなんだけど…頼っていいんだって教わらなかったというか…自宅で出産って、リスクが高すぎてギョッとしてしまうんだけど、こういうひと、たくさんいるんだろうなあ…と思うと…アンダークラスの女の物語だよなあ…強くもなければ弱くもない…なんというか、鈍感な女の話…だよなあ…

宣伝と内容の齟齬にクラクラする、つくづく、受け止め方がわからねえ…
るる

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