不在

反撥の不在のレビュー・感想・評価

反撥(1964年製作の映画)
4.6
この映画は主人公キャロルの恐ろしく虚ろな瞳のアップから始まる。
彼女は幼い頃に性的虐待を受け、男性恐怖症を患ってしまった。
大人になった現在でもその傷が癒えず、精神のバランスを崩しかけているキャロルは、人生から男性を排除することで何とか生きてきた。
姉と二人で暮らしたり、客も従業員も女性しかいない職場を選んだりと、徹底的に男を遠ざけてきたが、ある時姉が恋人を家に招き入れてしまう。
その男は妻子がいるにも関わらずキャロルの姉と付き合い、毎晩のように泊まりに来ては情事にふける。
その様子を嫌でも聞かされている内に、キャロルはとうとう正気を失ってしまう。

キャロルの住む家は彼女の心の中を表している。
ここには頻繁に人が訪ねてくるし、電話もやたらとかかってくる。
たとえカーテンを下ろし、電話線を切って鍵をかけようとも、外部の干渉、男の侵入を防ぐことはできないのだ。
そして精神の崩壊と共に、この部屋も歪なものへと変わっていく。

事件の後、大勢の人たちがキャロルの部屋に押しかけるが、その中から彼女を救い出すのが、あの不倫男だ。
彼はキャロルの体をしっかりと抱え、部屋の外に連れ出す。
これは彼女にもたらされた最後の希望のようにも見受けられる。

ウサギには子供らしさと、それに相反する性欲という二つのイメージがある。
本作におけるウサギの丸焼きは、キャロルの純真さが殺されたことと、剥き出しの性的感情への嫌悪の両方を表現するモチーフとなっている。
不在

不在