クシーくん

悪魔の植物人間のクシーくんのレビュー・感想・評価

悪魔の植物人間(1973年製作の映画)
3.6
OP、なんの事はない植物の成長をただ早回しで流しているだけなのだが、そこに不吉な劇伴を加える事でなんとも気味の悪い映像に仕上がっているのは苦笑いしつつも、アイデアに感心した。

ドナルド・プレザンスが植物オタクの気狂い博士なお話。トッド・ブラウニングの「フリークス」に薫陶を受けた作品、ということだったので、身体障害者を見世物にして、その上グロいモンスターまで組み合わせたようなただただ悪趣味な映画かと思いきや妙に社会派で、湿気のある薄暗さを感じさせる。

監督は「アフリカの女王」や「黒水仙」など名作の撮影を手掛けた巨匠ジャック・カーディフ。反面、彼自身の監督作品は余りパッとしない物が多いようだが、その中では異彩を放つ出来栄え。単なるB級ホラーで終わらないのは、ベテランの地力故か。内容的にはロジャー・コーマンのしょうもない低予算映画みたいな題材なのにしっかり話もまとまっていて良い。

顔が強度の奇形の為、迫害され見世物小屋に流れ着いたリンチ青年の悲しい孤独な姿は少し感動すら覚える。粗野でエゴイストで救いようのない悪人なのだが、どうしても憎みきれず、ただ愛していると一言だけ言ってくれと望み、自分を憎む人々を前にガムシャラに暴れまわる様子、その哀れな無謀さは浪花節か、愛を忘れたカジモドか、はたまた良心のない番場の忠太郎のようだ。

社会から爪弾きにされているフリークス達の生活と心情を丁寧に描いているのも好印象。とは言え、フリークス達の芸や宴会場面、また最後の襲撃シーンは本家「フリークス」の影響大で、部分によってはほぼ同一のシーンといっていいレベルなのも否めない。

色使いやファッションや、学生の雰囲気も全体的に70年代イギリスのカラーがバリバリ出ててこの辺も好みな所。

「植物人間」は確かにクライマックスの目玉ではあるが、この話の主軸ではない。原題の"The Mutations"や"The Freak Maker"の方が断然良い。カルトな人気があるのも素直に頷ける作品。
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