工藤蘭丸

愛と死をみつめての工藤蘭丸のレビュー・感想・評価

愛と死をみつめて(1964年製作の映画)
3.6
これは私が生まれて初めて映画館で観た実写映画でしたね。1964年の9月公開ということなので、当時私は小学校の1年生。まあ、封切館ではなく、当時北仙台にあったロマンス座という二番館で観たので、それよりは数ヶ月遅れだったと思うけど、3つ年上の姉とその友達に連れられて、小学生だけの3人でバスに乗って見に行ったものでした。

でも、さすがに1年生ぐらいでは、この映画の内容は理解できなかったかも知れませんね。実際、結構前の方の席で観たような気がするんだけど、顔半分をガーゼで覆われた、大スクリーンでの顔のアップが怖かったようなイメージしか残っていません。

ストーリー自体は、青山和子が歌ってヒットした『愛と死をみつめて』の歌詞などを通じて知ったような気がするけど、それもおそらくはもう少し大きくなってから知ったんじゃないかなと思う。

いずれにしても、それ以来約59年ぶりの鑑賞だったけど、まず主題歌が青山和子の歌じゃなかったことにびっくり。きっと歌や映画が別々に作られたりするほど、原作の反響が大きかったんでしょうね。原作は、2人の間で実際に交わされた手紙などを元にしたノンフィクションだったようだけど、その後あまたの類作が作られることになる、いわゆる純愛難病もののハシリだったようです。

子供の頃に怖く見えていた吉永小百合の顔は、今観ると半分しか見えなくても十分きれいでしたね。当時は19才だったようだけど、これまで観た彼女の映画の中でも、一番美しく見えたぐらいかも知れません。

さらに、明るく親切で聡明で、まさに理想の女性像みたいなキャラクターだったし、迫り来る悲劇とのコントラストが強くて、切ない気持ちにさせられました。『禁じられた遊び』のメロディも、まるで誂えたようにマッチしていましたね。

最近の映画のような、過剰なお涙ちょうだい演出もなかったけど、「嘘の嫌いなマーコ、なんで嘘ついた」みたいな、明るくさりげないセリフにも泣かされてしまったし、宇野重吉の最後の叫びにも涙が出てきてしまいました。

脇役陣もなかなか豪華な懐かしい顔ぶれでしたね。北林谷栄は、当時まだ53才だったようだけど、とてもそうは見えない老け役ぶりには驚きました。

それから、当時は医者が病室内でタバコを吸っていたり、病室にネズミが出ても笑っていたりしたようで、やはり今と比べると大らかな時代だったんだろうなあと思い、ほっこりさせられるようなところもありました。