櫻イミト

フェイドTOブラックの櫻イミトのレビュー・感想・評価

フェイドTOブラック(1980年製作の映画)
3.5
18歳の映画マニアが殺人鬼と化していくスラッシャー青春映画。主演は「ヤング・ゼネレーション」(1979)のデニス・クリストファー。”フェイド TO ブラック”はフェイド・アウトと同じ意味。

70年代末期のハリウッドの街。熱烈な映画マニアのエリックは、昼は映画倉庫で働き、家では16mm映写機で映画鑑賞の日々。しかし一緒に暮らす叔母からは友達を作れと説教され、会社では失敗続きで疎まれる存在だった。そんなある日、カフェで憧れのマリリン・モンローそっくりの女性に遭遇し思い切ってデートを申し込むのだが。。。

破滅系青春ドラマの佳作だった。映画の実写引用やコスプレオマージュが多いのも楽しい。主演デニス・クリストファーが貧弱なマニア青年役にうまくハマっていた。ラストの舞台がハリウッド映画の殿堂グローマンズ・チャイニーズ・シアターなのも最高の設定。ただ惜しむらくは、最初の殺人へ向かう狂気発動の心理描写が弱く、もう少し丁寧に描けていたら完璧だったと思う。

本作をサブカルチャー史上で考えると、重要なターニングポイントを捉えた象徴的作品とも位置付けられる。70年代中盤頃までの若者文化にはまだ反体制カウンターカルチャー色が残っていたが、現在に続く“個に引きこもる青春”の幕開けが本作で描かれる70年代末期と再認識できる。それ以前から読書やレコードなど個の楽しみはあったが、映画(映像
)の持つ影響力は比べ物にならない程大きい。

※当時の映画関連の最も大きな変化は、1977年に世界初のレンタルビデオ店ができたこと(ニューヨークとロサンゼルス)。

その傾向はネット社会を迎えてさらに加速している。一方で本作の主人公のような孤独感は双方向SNS(含Filmarks)で多少は軽減されているだろう(新しい形の摩擦は発生しているが)。エリックは映画クイズでマウントを取ろうとして失敗した。現代ならば蓮實重彦気取りの尊大な映画レビューで一人マウント気分に浸れるのだ。

※本作内の引用映画
「民衆の敵」(1931)
「大アマゾンの半魚人」(1954)
「死の接吻」(1947)
「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(1968)
「吸血鬼ドラキュラ」(1958)
「ホパロング・キャシディ」シリーズ(1935~1948)
「白熱」(1949)

※本作内のコスプレ&オマージュ
「何がジェーンに起こったか?」(1962)
「紳士は金髪がお好き」(1953)
「魔人ドラキュラ」(1931)
「サイコ」(1960)
「ミイラの復活」(1940)
「王子と踊り子」(1957)
櫻イミト

櫻イミト