デニロ

猫と庄造と二人のをんなのデニロのネタバレレビュー・内容・結末

猫と庄造と二人のをんな(1956年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

2か月ほど前の週末、帰省した二男が駅前で鳴いていたと言って仔猫を保護してきた。翌日、動物病院に連れて行き生後2か月位の男の子だと判る。仔猫は怯えているのかわたしたちが手を差し伸べると、尻込みしながら歯を剥き出し声を出して威嚇する。それでも柔らかくしたキャットフードに齧り付いていた。保護するまで何を食べていたんだろうと思う。ミミズ、セミだろうか。
家には既に姫猫が2匹、姫犬が1頭いるので飼うのは無理かなと。既に一番上の姫猫が極端に反応して怒り狂っている。一緒にしておくわけにもいかないので猫用のテントを久し振りに開いて仔猫を収監した。
里親を探すしかないのだがという話になり、後はよろしくと二男は帰っていったのでした。

本作は猫のリリーを偏愛する森繁久彌の自己愛の行方の物語。

森繁久彌は、荒物屋を営む母浪花千栄子にひとり育てられていて頭が上がらないというか、支配されているというのか、かなりの意気地なし。妻山田五十鈴もおそらく母親にあてがわれているのだろう。浪花千栄子の台詞に、女中あがりの嫁、という表現があって、この女なら御しやすいと思い迎え入れたのではあるまいか。しかし、思いのほか自我が強く、折り合いがつかない。働き者なので放っておいたが、小金持ちの親戚から放蕩娘をどうにかしたいと相談を受け深謀遠慮。敢えて色々と論いいびり出しにかかる。遂に成功し山田五十鈴が出て行くところから本作はスタートします。出て行った山田五十鈴の代わりに嫁入りしたのは香川京子。無論、持参金付きだ。浪花千栄子の目的はあくまでも金なのだ。

本作の香川京子。短パン、ビキニブラの派手な姿で奔放に暴れまわっております。これまで観てきた彼女の役柄とは全く違います。水を得た魚です。魚です。この家はあたしの物。金蔓を逃してはなるものかと浪花千栄子も香川京子のことは放し飼いです。

さて、そんな状況を聞いた山田五十鈴は怒り狂います。しかも何故か森繁久彌に執着しているのです。わたしがいなければこの家は成り立たないという当ても外れてしまい、もはや気持ちが収まらない。一計を案じ森繁久彌と香川京子の仲を裂こうと、ネコのリリーを出しに使う。森繁久彌はあなたよりリリーを愛していると悪魔的な囁き。香川京子は、そんな馬鹿なと思いながらも、アジの二杯酢などという些細なことから小さな猜疑が天空を覆うまでに至り、山田五十鈴の策略通りと事が運び、したり山田五十鈴はリリーを手に入れる。

そんな化かし合いとキャットファイトが続きます。でも、ラストは不思議な余韻を残します。
『ティファニーで朝食を』のラスト。雨の中、キャットという名前の猫を探し求めるオードリー・ヘップバーン。現実の人生を怖がって、しかもひとりだけの自由に意地を張り、社会の境界線に従いたくない。でも、いつしか自分の作った安全地帯に逃げ込んでしまう。濡れそぼっているキャットはそんなわたしそのもの。キャットどこにいるの。箱の中から顔を出したキャットを泣きじゃくりながら抱きしめる。自分自身を抱きしめる。
そんなラスト・シーンが被ります。

さて、二男が保護した仔猫のその後ですが、実は名前を授けて、すっかり我が家のプリンスとして棲みついているのです。

1956年製作公開。原作谷崎潤一郎。脚色八住利雄。監督豊田四郎。

神保町シアター 没後10年 女優・山田五十鈴 にて
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