Keigo

柳川堀割物語のKeigoのレビュー・感想・評価

柳川堀割物語(1987年製作の映画)
3.5
もともとアニメの舞台にするためのロケハンで柳川を訪れたのに、最終的には3時間近い長尺のゴリゴリのドキュメンタリーになってしまったという本作。取材を行う中で柳川の人々の水との付き合い方とその歴史を聞き感銘を受け、フィクションの舞台として描くよりもドキュメンタリーとしてこの文化の変遷を映像に残したいと考えたらしい。そういうところが高畑勲らしいと思うし、推せる。

高畑勲は柳川の人々の水との付き合い方に、人間と自然との共生についての本質を見たのだろう。

自然に畏敬の念を抱きつつ、手を加えるのは最低限に留めながら、その力を最大化するようなあらゆる工夫がなされている。それこそ合理的でサステナブルな循環だ。しかしそれを維持する生活というのは、大変に煩わしい。その煩わしさだけを取り除くことは出来ない。

高度経済成長の渦に飲まれ、人々が資本を膨らまし私腹を肥すことばかり考えるようになると、その金にならない日常の煩わしさに嫌気が差して、蓋をしてしまえばいいと考える人が出てくる。そうすればより便利で快適で豊かになるはずだと目先の煩わしさに安易に蓋をすることが、地盤沈下や水害などのもっと大きな弊害を引き起こし、結局さらなる煩わしさを抱えることになったりもする。

人間が自然と共に豊かに暮らしていくためには、避けられない煩わしさがあるということ。そしてそれは、人間同士の関わり合いにも同じことが言えるのかもしれない。
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