しんご

パルプ・フィクションのしんごのレビュー・感想・評価

パルプ・フィクション(1994年製作の映画)
4.5
北野武曰く「映画で2人が長く殴り合った結果クライマックスでどっちかが死ぬって演出はフィクションだよ。自分がガキの時分見てたケンカと違うもん。どっちかが刃物出して向かったら一瞬。何が起きたかわかんないまま人が死んでた。そんな当たり前のシーンを自分の映画で出したら"乾いた新しい暴力描写"て囃すもんだからさ、可笑しくなっちゃったの」らしい。

死という「非日常」を日常にさりげなく潜ませる怖さを演出する点で北野武とタランティーノは類似していると思う。唯一の違いとして、タランティーノは「死」に向かうまでに無数の「意味のない会話」が繰り広げられる点が挙げられるけど...。

「Pulp Magazine」(三文雑誌)から派生した「くだらない話」を意味する本作のタイトルはまさに本筋に関係ない意味のない会話のオンパレード。しかも各エピソードの時系列はぐちゃぐちゃ。そんなカオスな世界観でお届けされる2時間半の長尺ストーリーなのに、これが全く目を逸らせないほどクセになる。

パンプキン達の強盗計画。
脚のマッサージの話。
ビッグカフナバーガーの味。
ドラマのパイロット版の裏話。
ダンス大会。
バーでの八百長密談。

その辺の学生や会社員がしていてもおかしくない着地の見えないグダグタトーク、なのにそこに忍ばされる「これから何かが起こる」感プンプンのケレン味が堪らないし、それが最高のタイミングで爆発するのはもはや恐怖を通り越すほど。

MVPはクセの強すぎる聖書暗唱殺し屋ジュールスを演じたサミュエル・L・ジャクソン。ハンバーガー店の話をした後に
チーズバーガー頬張ってスプライト飲むだけであそこまで怖く絵になるのも凄いし、人を撃ち殺しといて「すまん、気が散ったか?」とスマすあの生粋のイカれキャラはきっと永遠に忘れられないだろう。「フランスではなんでチーズロワイヤルって言うか知ってるか?」...何気ない会話なのに台詞回しが怖すぎる。

サミュエルに限らず、役者は全員素晴らしいですけどね。ジョン・トラボルタがユマ・サーマンと無表情でツイストを踊る退廃的なシーンもサミュエルのシーンと同じくらいに好き。もちろん「サタデー・ナイト・フィーバー」(77)に主演したトラボルタに対するオマージュもあるんだろうけど、筋金入りの映画マニアのタランティーノならではの小粋な演出が光る展開も見物のひとつである。
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