サマセット7

チェイサーのサマセット7のレビュー・感想・評価

チェイサー(2008年製作の映画)
4.0
監督は「哀しき獣」「哭声」のナ・ホンジン。
主演は「哀しき獣」「1987、ある闘いの真実」のキム・ユンソク。

[あらすじ]
出張型風俗店を経営する元刑事のジュンホ(キム・ユンソク)は、店の風俗嬢が相次ぎ失踪する事態に頭を抱える。
風邪のミジン(ソ・ヨンヒ)を無理矢理出勤させて頭数を揃えるが、ミジンについた客の電話番号が、失踪した嬢らと失踪直前に会っていた客のものと一致することに気づく。
ミジンは、客(ハ・ジョンウ)の自宅に赴くが、そこで男は殺人鬼の本性を露わにし…。

[情報]
2008年公開の韓国映画。
ゼロ年代に隆盛を極めた韓国産クライム・サスペンスの代表作の一つ、と評価されている作品。
容赦のない展開と、過激な暴力描写、という韓国クライム・サスペンスの特徴を体現している。

復讐3部作のパク・チャヌクと並び、韓国クライム・サスペンスを代表する監督であるナ・ホンジンの長編デビュー作。
観客動員500万人と言われるヒット作となり、韓国国内でアカデミー賞にあたる大鐘賞6部門のほか多数の賞を取るなど、批評的にも高く評価された。

2004年にソウルで起こった実在の連続殺人事件をモチーフに作られている。

[見どころ]
予測不能かつ容赦のないサスペンス展開。
今作でブレイクする俳優ハ・ジョンウの演じる、人間性を喪失した最悪の殺人鬼像。
物語が露わにする、現代社会の歪みと不条理。

[感想]
この熱量、このスピード感。
そしてこの後味!!
これぞ韓国映画!!!

とはいえ相当陰惨なので、軽々にオススメはし難い。

「すぐ戻るからいいのよ」
からの、放置された自動車が醸す不穏な空気!!!
映像で、起こるべきでないことが起こっていることを明示する演出!
全編、ナ・ホンジン監督の演出は鋭い。

荒事上等で機転も効く主人公ジュンホは頼もしい。
しかし、対する殺人鬼が規格外にヤバく、これを逮捕しようとする警察組織がどうしようもなく無能に描かれているため、展開の予測がつかない。

被害者となったミジンの生存を信じているのは、ジュンホとミジンの娘のみ。
その焦燥感が、ストーリーを牽引する。
始めから終わりまで、ドキドキハラハラを持続させる手腕は見事だ。

終盤の展開が、この作品の肝だろう。
今作のテーマとも直結する展開の切れ味は、とにかく見てくれとしか言いようがない。

主演2人の演技巧者に加え、被害者親子の熱演も印象に残る。
とはいえやはり、今作を忘れがたくするのは、ハ・ジョンウ演じる殺人鬼だろう。
その目。
その日常と地続きの異常性。
人間性の喪失。

[テーマ考]
今作は実在の20人もの被害者を出した連続殺人事件をモチーフにしている。
被害者は、高齢の夫婦か、風俗嬢であったとされる。
実際に20人の人間が、1人の男に無惨にも殺され、死体を弄ばれた、という現実はあまりにも重い。
事件解決が、風俗事業者による私的な囮捜査によっていた点、捜査機関の手法に批判が集まった点など、今作が参照した部分も多いのだろう。

今作は、殺人鬼の非人間性もさることながら、善意の者たちのそれぞれの小さな過失により、理不尽にも被害者が追い詰められ孤立していく様を克明に描いている。
その理不尽、その無力さ。
今作のテーマは、非道を許す社会に対する、怒りと憤りにあろうか。

性風俗の搾取構造、殺人鬼の殺人の動機、言動、その他全編にわたり、男性性の救い難い加害性が濃厚に示唆されている。

[まとめ]
ゼロ年代韓国産クライム・サスペンスを代表する逸品。
ナ・ホンジン長編監督作品は2022年3月現在で「チェイサー」、「哀しき獣」、「哭声」の3作のみ。いずれもカンヌ国際映画祭の出品作品だ。
いずれも評価の高いヒット作とあって、順次観ていきたい。