ひろ

蜘蛛巣城のひろのレビュー・感想・評価

蜘蛛巣城(1957年製作の映画)
3.6
監督は黒澤明、脚本を小国英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明の黒澤シナリオチームが担当して製作された1957年の日本映画

この作品は、シェイクスピアの四大悲劇の中で最も不吉な作品と言われる「マクベス」を日本の戦国時代に置き換え、翻案された作品である。日本人が海外の作品を翻案すると微妙な作品になりがちだが、翻案にも関わらず、最も忠実に「マクベス」を映像化した作品と評価されているからすごい。

内容はまさに「マクベス」そのもの。予言によって欲望にかられる鷲津武時はマクベス、武時を叱咤して操る妻の浅茅はマクベス夫人である。欲望にかられ大罪に手を染め、破滅していくというフィルム・ノワールをも感じさせる作品になっていて、黒澤監督の底が知れない力量を感じた。

武時を演じたのはもちろん黒澤作品の顔である三船敏郎。三船敏郎が黒澤作品でこういう役を演じるのも珍しいが、疑心暗鬼になり狂人となっていく武時を完璧に演じていた。この人の目力に勝てる人は、未だにいないね。有名な最後の弓矢のシーンでは、三船敏郎に向かって本物の弓を射ている。これに激怒した三船が、後日散弾銃を持って黒澤宅に押し掛けたのは伝説となっている。

「隠し砦の三悪人」では本物の銃を撃とうと提案して却下されたが、本物の弓を射たり、燃えている家の中で役者に演技させたり、邪魔だから民家を立ち退かせたりと、今では考えられないようなことをしていた黒澤明の映画作りへのこだわりはすごすぎる。

武時をそそのかす妻の浅茅を演じたのは、昭和の大女優・山田五十鈴。欲望にかられて、最後には狂ってしまう女を狂気的に演じていて鳥肌がたった。予言をする物の怪の老婆を演じた浪花千栄子もなかなかの怪演ぶりだった。この時代の女優の演技力を、現代の顔だけの人たちは見習ってもらいたい。

世界的に知られるシェイクスピアの戯曲さえも、自分色に塗り替えてしまえる黒澤明という監督が、日本映画史上最高の監督と言われるのは当然のことかもしれない。「マクベス」を知らない人でも問題なく楽しめるけど、いかに「マクベス」を再現しているかを確かめるのも楽しみ方のひとつなんじゃないかな。
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