SANKOU

ターミナルのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ターミナル(2004年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

昨年、この映画の主人公ビクター・ナボルスキーのモデルとなったイラン人男性が死亡したニュースを目にした。
パリのシャルル・ド・ゴール空港で18年間も生活をしていたという驚きの話だったが、複雑な外交問題や様々な要因が重なって空港で身動きが取れなくなることは実際にあり得るのだと思った。
この映画はそんな法の隙間に入り込んでしまった男の話だ。
クラコウジアという東欧の国からやって来たビクターは、母国でクーデターが起こってしまったために空港で足止めされてしまう。
空港の外に出ることも、母国へ帰ることも出来なくなったビクターは、悲痛な想いを胸に空港で生活することになる。
空港の警備はそれほど厳重ではなく、さらに警備主任のディクソンも空港内では彼を逮捕することが出来ないために、それとなく外へ出るように促すのだが、ビクターは空港に留まることを選択する。
どうしてもニューヨークへ行きたいと主張するビクター。
彼は中身の分からないピーナッツバターの缶を大事そうに抱えている。
彼の目的とは一体何なのか。
物語の背景には深刻な難民問題があるのだが、この作品自体はとてもユーモラスで人の善意に溢れている。
最初は言葉も分からなかったビクターが、様々な知恵を働かせて空港で生きる術を身に付け、また清掃員のグプタやフードサービス勤務のエンリケなどと交流を重ねて空港に溶け込んでいく様は観ていて爽快だった。
スピルバーグはコメディを撮るセンスも抜群だと感じた。
そして客室乗務員のアメリアとのロマンスも。
終盤でようやくビクターがニューヨークへ行くために空港で待ち続ける意外な理由が明かされる。
それは亡き父のためにジャズプレイヤーのサインをもらうというあまりにも細やかな目的のためだった。
とても律儀で、人情味の厚いビクター。
物語が進むに連れておそらく観客はどんどん彼のことが好きになっていくだろう。
そしてそれは空港で働くすべての人々にも言える。
ディクソンだけが自分の出世のためにビクターを目の敵にしているが、それ以外の職員は皆ビクターの味方である。
ビクターがいよいよ空港を出る時には、皆が全力で彼をサポートしようとする。
誠実さはいつか必ず人の心を動かす。
ビクターが空港で待ち続けていたのは、人の心を動かすためだったのかもしれない。
トム・ハンクスはやはり芸達者だ。
ここでは描かれていないビクターの人生が見えたような気がした。
そしてアメリア役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズの美しさにも心を奪われた。
SANKOU

SANKOU