たーぼーん

蔵の中のたーぼーんのレビュー・感想・評価

蔵の中(1981年製作の映画)
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10代でデビューした横溝正史の60年に及ぶ作家生涯は実は山あり谷ありで、全盛期とはっきり言えるのは金田一以降10年位のみで、そもそもその10年自体が少しトシをとり過ぎており、それ以降は高齢による筆力の衰えと時代の変化によるミステリファンの嗜好の変化、それ以前は戦前又は戦時中の紙事情の悪さや欧米かぶれを許さない当時の政情等の理由により、マニアックな作家で乱歩の様な流行作家にはなれていなく、それらの時期はなかなかまとまった作品群を残せていない。
また、もう一つ彼を心底苦しめたのは、この作品のテーマ・背景と言える「不治の病であった結核」だった。
そしてそれらがなかったら年齢的には全盛期であったはずの頃の中心作品が「鬼火」とこの「蔵の中」であり、この作品が映画化されているのは、嬉しいしとても味わいがあり面白かった。
なお、個人的にはデビュー頃のショートショートと言ってもいいくらいの少ない枚数の短編の数々が何冊かに纏められて、今でも読める様になっており(少なくとも昭和60年代はあった)後の長編にはない軽快さと切れ味があり、楽しく読める。