まりぃくりすてぃ

新しき土のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

新しき土(1937年製作の映画)
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日本と外国との初の合作映画だよ。原節子の初主演映画。
1933年春に颯爽と国際連盟を脱退した大日本帝国(当時世界第11位ぐらいにいた映画先進国 ☜おりこん調べ ☜適当に書いてます)が、同年秋に従弟みたく脱退したナチスドイツ(当時世界第2位ぐらいの映画先進国 ☜おりこん調べ ☜一応考え抜いて適当に書いてます)に警戒心を抱きながらも、キナ臭い計算もあって、山岳映画の名手のアーノルド・ファンクに「撮りたいの? 撮りたいんだね? あんまり日本を古臭い恥ずかしい国としては描かないでほしいけど、とり精協!(とりあえず精一杯協力するぞ!) え、富士山いっぱい撮りたい? ワカルワカル」と約束して37年に咲かせちゃった不思議作だ。
共同脚本とは名ばかりで、気乗りしない不思議仕事を会社からパシリみたく押しつけられて伊丹万作が途中で反旗を翻し、伊丹監督版とアーノルド監督版がほぼ根本的に別内容作品として撮られ仕上げられ、(伊丹版はコケたが) アーノルド版のほうはヨーゼフ・ゲッベルス宣伝相に「クソ長ぇ」と文句つけられながらも “最高映画賞” を頂戴してドイツでスマッシュ大ヒット。検閲時にゲッベの横にはアドルフ・ヒットラーがいて原節子へのキュンキュン開始、総統のあの狂犬っぽい怖い顔がほんのりポーッとなってたそうな。(☜イメージです。)
ニュルンベルク史観と東京裁判史観をどこまで受忍してるかによるけど、令和の一般的日本人は、本作を “敗戦国たちの日陰の映画。見どころはうら若き原節子の華やかさと終盤の山岳シークエンスのただならなさぐらい。とにかく、一義的に珍品” 扱い以外する気ないだろう。しかしワタシは、WWⅡにかかわった地球上のすべての国家国民が「喧嘩両成敗」の鉄則に従って1945年の時点で全員死刑、っていう世界線もアリなんじゃない?って、動植物の立場からたまに想ったりするアナーキーガールなので、日独防共協定締結のための人の行き来のカムフラージュとしてこれ創られたとか、原節子が陰謀史観を信頼してて反ユダヤ思想をけっこう真剣に抱いてたとか、そのへんについて感慨も意見も特にない。ヒットラーは好きでも嫌いでもなくあえてどっちかっていうと好きなほうで顔だけ大っ嫌い。ウィンストン・チャーチルはヒットラーに負けず劣らずの人種差別主義者で広島長崎の首謀者だったから、チャーチルだけは絶対に赦さない。(演説終了。)

えっと、、
今回、国立アーカイブで観たものはナチスドイツ国内124カ所(☜イメージです)で封切られたのと同じアーノルド版で、ドイツ語からの和訳字幕なし。とりあえずワタシ向きかな。なぜって、この理屈っぽいマリは大学でドイツ語をクラスで一番頑張り、しかも登山サークルに在籍してたからね(☜高所恐怖症により三カ月で脱退)。
ところが。甘かった。ドイツ語の聞き取りサッパリだ! 前置詞と接続詞と代名詞と「Ya(はい)」と「Vater(父)」しかワカラナカッタ。。。(なのに、原節子がしょっちゅうドイツ語セリフを言いこなしてる! 父役の早川雪洲や婚約者役の小杉勇に至っては完全にペラペラだった! あんたら何者!?)
本編全体の三割ぐらいはドイツ語で、困っちゃいかけた。でも、至ってシンプルなストーリーはほぼ完全理解。字幕なんて要らないな。
▼ネタバレ注意▼
「小杉勇が洋行して金髪碧眼のドイツ美人ルート・エヴェラーと恋に落ち、彼女とともに帰国し、許嫁の原節子を邪魔に思って三角関係。節子は大和撫子として心こめて上品にルートさんをもてなす。でも、つらいから自殺を決意。ドイツに戻ったルートからは勇に『身を引きます。サヨナラ』の手紙。しかし既に節子は火山山頂へ。勇は必死に節子を追って山へ! 山へ! 山へ!」
クライマックスの山シーンが異様にたっぷり! それまでルックス的にあまりにも冴えなくて、ルトガーハウアータイプの長身ドイツ美人と全然つりあいとれてなかったずんぐりむっくりな小杉勇が、大河をクロールで渡って対岸の岩山をするりするする駆け上がる。そうか、このための彼か。元登山部(四カ月以上いた)に違いない。それまで一時間ぐらい「節子がルートにお箸の使い方教えたりする “YOUは何しにニッポンへ” な楽しさ以外を受け取れずずっと戸惑ってきた全観客は、このたっぷりたっぷりたぷたぷ長時間な活火山クライミングクライマックスを満喫してアガっていったに違いない。
そしてラストは、「異国人との恋は終わった。日独は所詮一つになれなかったのだ。日本人は日本人と結ばれて、幸」という何の変哲もないオトナげには落ち着かない。なぜって、アウフヘーベンを生み出したドイツ人の映画だから!
何と、結末に(日本軍部大喜びの)アウフヘーベンが来るんだ!
▼▼ネタバレまた注意▼▼
「ドイツ美人との恋を経由したことで日本男児は狭苦しい日本を離れてユーラシアな夢を持って許嫁とともに広い満州へ! 開拓だ! この広い世界は最高だ! 日本人は日本人と幸せになる。それでいいのだけども、ドイツが日本人の視野を広げてあげたのだ! ゲルマン人はかくも偉大である! 一方、日本は美しいステキな国! 日独防共協定バンザイ!!」
だとさ。カントを生んだ国だからこそ、ヘリクツが何だかヘリクツじゃない妙な爽快感のある結末だね。

あ、原節子はこの時点ではまだダイコンだし(☜39年の『東京の女性』からが彼女の最高女優歴の始まりです)、水着姿や剣術を披露したりしてドイツ観客向けのアイドル色を存分に印象づけられてて気恥ずかしくさせる。
むしろ、勇の妹役の市川春代が小鳥のように可愛い。「お兄様が帰ってくるわ」「お兄様が帰ってくるわ」「お兄様が帰ってくるわ」と囀(さえず)りながら工場内を飛び回る春代がこの映画の中で一番可愛かった。
いっぺん書いたが、主演の小杉勇のイケメンじゃなさが中盤までずっと残念だった。登山からOKになる。

富士山いっぱい出てきたせいもあって、シュトーレンを今日も昨日も一昨日も食べた日独なワタシだな、と白つながりで楽しくなった。
じつは数年にわたってシュトーレン研究家をやってる。日本のパティスリーやベーカリーの作るシュトーレンは高くてまずく、輸入品を成城石井の(甘すぎず開封後もボソボソしにくく本格的ってワカル)や KALDI の (とっても甘くて開封直後のシットリと粉糖のパンパカパーンなバクハツが最っ高)ばかり買ってるんだけど、、、、じつは最近、お隣り県の小田原の某ベーカリーのシュトーレンが地球最高かも、って思った。あまりにも美味しいから「ドイツの正統本格レシピ通りなのか、オリジナルなのか」質問したら、「当店オリジナルです」って。猿マネ日本製造シュトーレンのあまりのレベルの低さにずっと絶望しつづけて生きてきたワタシだったから、「ついに、ついに日独のアウフヘーベンシュトーレンに出会えた!」って涙が出そうになった。

テーゼ対アンチテーゼ、で終わらないことの、美しさだ! 小田原の歴史的なシュトーレンは雪富士が近くにあるせいかな。

二元論に支配された世界をワタシは普段から嫌う。アウフヘーベン警察を今後も頑張ろう。
映画として本作は大した輝きを持たないけれど、早川雪洲のいかめしい Vater 顔が妙に忘れられない。Vater だけ聞き取れた自分に乾杯したい。メリクリは Frohliche Weinahaten! だったっけ。(oの上にチョンチョン)

[国立アーカイブ  YouTubeで無料視聴もできます。字幕なし]