よしまる

パラダイン夫人の恋のよしまるのレビュー・感想・評価

パラダイン夫人の恋(1947年製作の映画)
3.5
 オードリーヘプバーンのレビューばかり書いているうちに5月になってしまったので通常運転に戻ります。

 先月のぶんのマンスリーヒッチコック.(あ、ツキイチでヒッチコック作品をレビューしています💦)今回はアメリカに渡りセルズニックプロデュースの4作目。30歳そこそこの若きグレゴリーペックが「白い恐怖」から1作ぶりに続投。もう一人の主役、パラダイン夫人にはまだ20代のアリダヴァリ。

 イケメンのペックが扮するのは正義感の強い有能弁護士。かわいくて頭が良くて夫に尽くすパーフェクトな妻がおりながら、容疑者として勾留されているパラダイン夫人にいつしか心を奪われ、冷静な弁護が出来なくなっていく。
 事件を調べていくうちにパラダイン夫人の他に真犯人がいることを突き止めるに至るのだが…。

 ヒッチコックはこれまで良いように使われていたセルズニックが自ら書き下ろした脚本や、またグレゴリーペックを始めとしたキャスティングにも大きな不満を抱えながら撮影しており、そのためかいつもの切れ味は感じられない。
 それでもいくつかのショットは唸るものがあり、ヒッチコックでは珍しい法廷劇ながら、他の法廷ものではあまり見かけないカメラ位置やカッティングは飽きることなく惹きつけてくれる。ちなみに法廷はすべてセットで作られたもの。だからこそできるカメラワークは見どころのひとつだ。

 さらに本作の鑑賞ポイントはタイトルのパラダイン夫人ではなくて、ペックの奥さんのゲイキーン。アントッドという無名の美人女優さん、誰?と思って調べたらなんとデビッドリーン監督の当時の奥さん!
 彼女はヒッチコック自身が連れてきたキャストで、熱の入りようが伝わってくる。しかしセルズニックは最終的に彼女の出演シーンを20分近くカットしてしまったそうだ。

 まだ映画は監督ではなくプロデューサーのものだった時代で、この作品を最後にヒッチコックはセルズニックプロから独立、それから50年代の黄金期を迎えることになる。
 しかしもしこの作品がヒッチコックの手でキャスティングや編集がなされていたなら、もっとドラマティックな大作になり得ただろうと思うとちょっぴり惜しい気もした。