荒野の狼

テイク・シェルターの荒野の狼のレビュー・感想・評価

テイク・シェルター(2011年製作の映画)
4.5
不安定な精神状態を、常にほぼ完全な安定感を保ったままのカメラワークで見せる映画。これで2時間引っ張れるかは、さぞかし冒険だったと思う。結論から言うとそれは成功している。潔(いさぎよ)いほどに水平を維持し、殆ど固定アングルで見せられる、静けさの中でのこの常ならぬ現実こそリアルだろう。自己の中でいくら精神がひっくり返ったって、世界は1ミリも動じない。このカメラは、感情を持たぬ事において、まさに世界そのものである。あざとい効果やショッキング描写で観客をケムに巻き、状況が状況ならカメラも演者とともにはしゃいだり、バトルしたり、切ったり貼ったりで映画の一部になった気になっているようなものとは一線を画す演出は、特出すべきチャレンジだ。
ちっぽけな個の内部で起きる、パニックは、外的などんなディザスターよりも深刻なのだということを、こんなふうに冷静に捉えられると、これまで気づかなかった新たな認識を得る人はきっと少なくはないだろう。見れば明白、その意図をじゅうぶんに汲み取った演者達。
物語とそのオチこそ平凡かも知れないが、映画そのものは非凡な作品である事は間違いない。
荒野の狼

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