ひでやん

ある結婚の風景のひでやんのレビュー・感想・評価

ある結婚の風景(1974年製作の映画)
4.0
犬も食わぬ夫婦喧嘩をのぞき見する5時間。

結婚10年を経た夫婦の離婚を描いた物語で、5時間のドラマを観るのは骨の折れることだが、50分で区切られた6話のエピソードで構成されていたので随分と気が楽になり、心のギプスはいらなくなった。各エピソードのラストで映し出されるファーロ島の風景にホッと一息。

冒頭、雑誌社からのインタビューに答える夫婦は何の問題もない円満な夫婦に見えるが、完璧の中に危なさを滲ませ、Ep3でそれを情け容赦なく剥き出しにする。浮気の告白なんですけどね、泣きっ面に散弾銃のような残酷さだった。夫婦2人を一画面で映し続けていたカメラが、急に構図逆構図の切り返しになるのでどきり。そんで残酷な告白に対して激昂するでも責めるでもなく、ひたすら聞いている妻の「落ち着き」がたまらなかった。

心理研究所の助教授と弁護士の夫婦だが、2人の会話は子供を産む産まない、両親との会食に行く行かない、離婚するしないといった一般家庭にあるようなもので、自分と重なる部分があった。夫は決まりきった毎日にウンザリするが、変えられない習慣にマンネリを感じるか、充足を味わうかって事なんだろうな。有ることを当たり前に思うと感謝を忘れるが、有ることが難しいと思うと文字通り「有り難い」気持ちになる。失ってから気付いても時すでに遅しだが、失うまで気付かないんだよなあ…。

「セトモノとセトモノとぶつかりっこするとすぐこわれちゃう。どっちかやわらかければだいじょうぶ 」という相田みつをの言葉をふと思い出した。本音を隠すと不満が募り、本音をぶつけると喧嘩になる。寄り添う時間の中でひとつまたひとつと角が取れ、まあるくなりたいものだ。

ベルイマンとリヴ・ウルマンの体験がそのまま描かれているようで、心の変化がとてもリアルに感じられた。泣き縋る妻と、その手を振り払う夫をEp3で描き、Ep5では、立ち直った女の強さと、自信を失くした男の弱さを描く。とにかく対話シーンが多い。その徹底した対話劇に見入ってしまったが、散々しゃべりまくった後、「僕たちは心の無学者だ」なんて言うんだもん、いやあ面白かった。
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