April01

素晴らしき哉、人生!のApril01のレビュー・感想・評価

素晴らしき哉、人生!(1946年製作の映画)
4.3
✨グロリア・グレアム✨
クリスマス定番のクラシック感動作品。皆様泣けると評判。異議なし。

自分が一番好きなのは、序盤の薬局でのエピソード。
主人公ジョージが泣いて耳をぶたないでと言って障害のある耳から血が出る。そうなってからやっと店主ガウワーさんの間違いを指摘する。しかもガウワーさんは悪くない、息子さんのことで気持ちが集中してなかったと、やられながらも擁護するという、なんとナイーブな少年よ!と胸が詰まり、ついにガウワーさんが気づいて泣いて謝る一連の場面がすごくエモーショナル。
それを見てたメアリーは、あの時点で主人公の本質を見てたと言っても過言ではない。

この時のジョージの心の美しさが、ダイヤの原石のように彼の性質の中に潜んでいて、その後人生の荒波の中で揉まれ、擦れた人間となり不幸に見舞われても、トータルでは良い人間であることをやめられない運命。ゆえにレールから外れたい欲求とのギャップに苦しみもする。
もはやこれまでかと思われた最悪の瞬間にも、ダイヤの原石ゆえの善行の蓄積が神から評価され、自分の幸せを確認するチャンスをもらうという恩恵に浴する。
ここで注目すべきは、遣わされた天使も俗世でいうところの昇進という損得勘定があって使命を果たしたという点。

トータルでよくよく考えると善人が報われるという単純な話ではないということがポイント。

ジョージは時と場合によっては、人や物に当たり散らすし(特にサムの海外話を聞いた後に妻の目の前で車に蹴りを入れるとこ笑う😆)、年老いた叔父の大失態に際しては罵倒に暴力。家に帰れば妻や子供に怒鳴り散らして八つ当たり。ピンチの時に本性が現れると言うけれど、こういう完璧からはほど遠い人間像が、逆にどこにでもいる普通の人、つまり映画を見ている自分に投影できる点が感情移入しやすく共感を誘い、翻って元気をもらえる応援メッセージとなって良い後味を残す最大の要因となっている。

さらに普通の勧善懲悪でいけば、常に悪として存在したポッター老人が罰せられるストーリーにはなっていない。8000ドルは誰かさんのもとにあるけれど、それについての追求はなく、善意の寄付でめでたく収まるという結末は、クリスマス・スピリットにピッタリのハッピーな作品。

裏では色んなことがあるし、人間も色々だけれど、不幸な面を見て悲しむのではなく、幸せな面を見て楽しい気持ちになろうという意図が全編を通じて感じられ、そういう意味では大人向けのダーク・ファンタジーのジャンルに類する作品だと思う。

主演のジェームズ・ステュアートは、終盤荒れ狂い、それまでの彼と全然別人のように髪を振り乱して彷徨う演技はさすが。
グロリア・グレアム演じるバイオレットに注目してたけど、独特のコケティッシュで男性を惹きつける妖艶な癖のある女性役がハマっていて、ドナ・リード演じる妻と良い対比になっている。


余談:
死にたいという気持ちを翻させるために、
1、死ぬことにより、他の人が不幸になること
2、生を受けず存在しないことにより、他の人が不幸になること
この2つは異なる問題で、普通は1の仮定を使って翻意を試みるんだけれど、何しろ万能の神の使者がなすことゆえに、普通はできない2を使ってパラレルな世界を描くSFになっている点が、ずるくもあり面白さにもなっている。
ジョージが追い詰められるのは、そもそも彼が生を受けて、その時点まで生きているからこその希死念慮であるのに、生を受けない場合と比較するのはズレている。
ジョージが生を受けて生きてきたからこそ、他人の幸せがある、だから今死んではならない、というのは論理的にちょっとおかしい。
ジョージが苦しんでいるのは、それこそ生まれて今まで生きてきたからこそ、なので。
April01

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