宇尾地米人

素晴らしき哉、人生!の宇尾地米人のレビュー・感想・評価

素晴らしき哉、人生!(1946年製作の映画)
-
このときキャプラ監督は49歳。『一日だけの淑女』、『或る夜の出来事』、『オペラハット』、『我が家の楽園』と傑作の発表を続け、アメリカン・コメディや人情劇の名手となりました。『素晴らしき哉、人生!』は映画の面白さ、ハートウォームを含んだキャプラタッチの集大成と評される名作ドラマでした。主演のジェームズ・ステュアートは38歳。若き日から中年期まで男の半生を演じ切りました。それがどれだけお見事だったか。

ある小さな町で生活するその男は、世界旅行や大きな建築業に携わる夢を抱きながらも、事情があって諦めます。挫折がありながら、結婚して家庭があって友人に恵まれ、立派に生きていました。亡くなった父親の跡を継いで、一生懸命働いて、働いて、頑張っていた。ところがあるとき、銀行に預けるはずの会社のお金を紛失する事態が起きます。探しても探しても見つからない。借金も出来なくなった。男は愕然として家に帰り、ヤケになって家族に当たってしまう。愛する妻から軽蔑されてしまう。そしてまたどんどん荒れてしまって、落ち込んでいきます。もうダメかもしれない、死んでやろうかなと思ってたら、不思議なじいさんと知り合います。じいさんは「君のことは昔からよく知ってるよ。私は君の守護天使なんだ」と言い出す。「おかしなこと言うなぁ」と思いつつ、「こんなことになるなら俺なんて生まれてこなければよかったよ」と呟く。じいさん天使は「そんなことを言ったらいけないよ。どれどれ、だったらよく見てみなさいよ」と、不思議なものを見せてきます。あんたが生まれてなければどんなふうになってるのか、町の景色や人の様子なんかを見せてきました。何だこれ何だこれとビックリしていくわけです。これが映画の山場、どんなものを見せられたか。いろんな人生があって、それを見せられて、一体いままでのどんなことがどれだけ大事だったのか。死にたい死にたいと思っていた男は、ハッと気付かされます。

この映画のキャメラは、主人公の男をずっと見守っている天使の目だったと思わされました。撮影とはただ撮ってるだけの仕事じゃあない。人の目になり、天使の目になり、神の目にもなる。それが自然や景色、美術、人生をいろんな感覚を研ぎ澄ませて見詰めている。そういう視線の瞬間で成り立っている。だから映画とはどこまでも見事なんですね。素晴らしい映画はそんな奥深い感覚を味わわせてくれるものです。この映画はアメリカ中を沁み沁みと暖めて、海を越えて世界中から感心が寄せられました。今でもクリスマスシーズンの定番映画の一作としてよく知られています。キャプラタッチが最高に盛り上がった人情傑作。製作から70年が経っていますが、鮮やかで暖かな見事な名作です。
宇尾地米人

宇尾地米人