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素晴らしき哉、人生!のブロオーのレビュー・感想・評価

素晴らしき哉、人生!(1946年製作の映画)
5.0
ジョージ・ベイリーが他人を自由にするために多くの不自由を引き受けていて、こうした慎ましい態度がなんとか報われて欲しいと、観ているこちら側も天使と同じ視点に立って祈ってしまった。
世界恐慌が起きて、新婚旅行で使うはずだった2000ドルを仕事の住宅金融の資金に費やしてしまう。ベイリーが仕事から戻ったあとに妻のメアリーが用意していた世界各地のポスターの飾りつけや少ない友人たちが歌う御祝いの歌なんかが本当に美しい。本当の豊かさや人々の心からの祝福はお金では買えないのだと、思わせてくれる。
メアリーが本当にいい女性で、幼い頃に、左耳の聞こえないベイリーに耳元で「一生の愛をあなたに誓うわ」と囁いてそれを本当に叶えてしまうのがグッとくる。ただベイリーの踏み込み方が若干気持ち悪くて、ダンスパーティーでプールに落ちてずぶ濡れになったあと着替えてバスローブ姿になったメアリーのバスローブの裾を執拗に踏んでいるシーンとかはツッコミどころが多い。メアリーが子どもを授かったことをベイリーに告げるシーンは、本当に二人ともが幸せそうで泣けてきた。「あの廃墟のお屋敷に石を投げて窓ガラスを割ることができたら願い事が叶う」と話して二人して石を投げ込むシーンも夢見心地でよい。
ラストは8000ドルの現金を失ったベイリーが仕事が立ちゆかなくなって身投げしようとし、天使に諭されて思い止まるのだが、帰ったあとに町中の人々がベイリーを救おうとお金を持って家に訪ねてきてくれるシーンはやっぱり泣いた。酒場の主人はジュークボックスを割ってお金を出して来たぜと言っていてこんなに嬉しいことはないなと思った。また天使がプレゼントとして残していったトム・ソーヤの冒険の本と最初のページに書いたメッセージも本当に素晴らしい。
友人は「苦境に陥っていた人が最後に救われてハッピーエンド」というように話していたが、個人的には花が咲くかもよく分からない何だかよく分からない植物の種を土に植えて、芽が出ないな花が咲かないなと言いながらもそれでも水をやり続けて、そうしていたら気がつかないうちに小さな花が咲いていたというような筋立てかなと思った。物語的にはベイリーが生きている内にその花が開かなくてもきっとそれでも良かったのだろうと思わせてくれるところがいいかもしれない。