やまもとしょういち

MOOG モーグのやまもとしょういちのレビュー・感想・評価

MOOG モーグ(2004年製作の映画)
3.5
ボブ・モーグ(ロバート・A・モーグ)の語りを中心に、キース・エマーソンらシンセサイザーの普及に一役買ったミュージシャンも登場するドキュメンタリー。

モーグシンセサイザーがどのような理念で、どういった経緯で開発されたのか、そしてどのように普及に至ったのか。それらのことがわかる映像になっているのだけれど、いま一歩本質に踏み込み切らない映像が続き、残念ながらドキュメンタリーとしての質はそこまで高くない。

「探求と観察の間にアイデアは存在する」

「私が目指すのは、可能な限りの自由度と広い調整範囲を持ち、無限の可能性を実現する楽器」

冒頭、博士がこんなことを言ってて期待値が上がってしまったのも多いに関係あると思うが。こういった理念の部分にもっとフォーカスを当てれば、資料的な価値は相当高かっただろうにと想像する。

シンセサイザーの音がまだ「楽音」としてみなされなかった時代に、Moogが人々の感覚を変えていったということを知ると、この楽器に触れることの意味にも少しだけ重みが増すような気がする。

突然、自宅の庭には場面が移り、自然との調和を説いたり、物質世界とはことなる資源にあるエネルギー(音楽のインスピレーション源になるような、やや霊的な感覚)について語るなど、ヒッピー的な思想、自然信仰のようなものとも近いような部分も垣間見られて興味深かった。つまりは、回路の電気信号を全て脳内で想像・再現して発音することができたモーグ博士にとっては、モーグシンセサイザーも自然の一部だったのだろうかと思う。

シリコンバレーと地続きにあるようなニューエイジ的思想とモーグについて考えると面白そうな気がする。