イホウジン

按摩と女のイホウジンのレビュー・感想・評価

按摩と女(1938年製作の映画)
3.8
孤独な者たちの逃避行

喜劇としての体裁を保ちつつも、常になんとも言えない重さがつきまとう。主人公の男と彼が惚れる女、2人と交流する子どもとその縁戚の4人は、皆が苦しい過去やそれによる避けられない現実を抱えている。そんな人たちがほんの一時温泉街に相見える様は、さながら現実逃避の場としての楽園である。長い道程を歩くか馬車を使わないと辿り着けないという特殊な立地も、その性質を強調する。戦前の映画にしては珍しい息苦しさだが、それが今作の余韻となって響く。
ラブロマンスの「駆け落ち」を想起させる終盤の展開とその映像は、今作の最高潮と言ってもいいだろう。主人公の、心の目を通して相手の素性を察せるという能力に薄々勘づいている女は、彼の行動を理解する。だがそのうえで明かされる女の真実は男の感じている以上に重いものであり、その告白はこの“楽園”からの追放を意味していた。交わりたくても交われない人間同士の関係の複雑さを描く本作の、象徴的なシーンであると言える。それを敢えて解決させないラストもまた、この映画の独特な魅力を引き立たせる。
中盤の、子どもを中心とした登場人物たちの掛け合いも良かった。自身の退屈さに反比例するように大人たちが相互に交流を持ち、途中からは登場人物たちの中継ぎ役になってしまうのが面白い。目まぐるしく変化する人間関係をうまく説明するためにも、彼のような客観的立場の存在が必要だったのだろう。

普通にいい映画だとは思うが、正直それ以上の説明に困る。
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