戦前の松竹を代表する監督・清水宏が手掛けた『按摩と女』は、一昔前、草彅剛主演で『山のあなた 徳市の恋』のタイトルでリメイクされたことでも知られる作品。
前回のレビューが座頭市ときて、次の映画を『按摩と女』をチョイスするのは我ながら短絡的だなぁと思う。
だけど本作の主人公・按摩の徳市、けっこう強い(笑)
居合抜きはやらないまでも腕っぷしはすこぶる強く、常人では歯が立たないというとんでもないキャラクターだった。
山の温泉場で按摩をしている徳市(演:徳大寺伸)は座頭市と同様、健常者から盲目を馬鹿にされることが一番嫌いで、普段も山道をスイスイ登って健常者を追い抜くことを楽しみにしているという男。
で、追い越せなかった相手に対してはあとで宿屋で馬鹿力で身体を揉みほぐして仕返しするなど、かなりやっかいな按摩さんである。
ある日、東京からやってきたという女性客(演:高峰三枝子)に呼ばれた徳市。目は見えなくともカンの良さから彼女が美しい女性であることに気付いた彼は淡い恋心を抱くようになる。
折しも温泉街では空き巣事件が多発する。徳市はもしや彼女の仕業なのではと怪しむのだが……。
全体的にわたってハッとさせられる美しい映像の数々で、特に傘をさした高峰三枝子のショットに関してはまさに芸術写真の領域。
旅館内を横スクロールするカメラワークも新鮮な印象を受ける。
■映画 DATA==========================
監督:清水宏
脚本:清水宏
音楽:伊藤宣二
撮影:斎藤正夫
公開:1938年7月7日(日)