カタパルトスープレックス

野良犬のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
2.5
黒澤明監督のクライムサスペンス映画です。テーマは「アプレゲールとして善く生きる」でしょうか。

アプレゲールとは戦後の愚連隊とか道徳観のない若者を指す言葉ですね。三船敏郎演じる若い村上刑事はバスの中でスリに拳銃を盗まれる。つーか、ジャケットの外ポケットに拳銃入れるな!って話ではある。しかし、拳銃がスラれないと話ははじまらないので仕方ない。そして村上刑事はベテランの佐藤刑事(志村喬)と組んで犯人を探すことになります。村上のコルトが犯罪に使われる。さてどうする?という話です。

佐藤刑事は村上を「正しいアプレゲール」で犯人は「間違ったアプレゲール」だと言います。この辺の価値観は戦後すぐの話で今となってはよくわからないです。まあ、なるほど、そうなのかとしか言いようがない。

それにしてもクライムサスペンスにしてはあまり緊張感がない映画でした。当時はとても緊張感があったのかもしれませんが、刺激に慣れてしまった今のボクらの世代にとっては随分と薄い刺激です。こう言ってはなんですが、たかだか拳銃が一丁盗まれたからって騒ぎ過ぎ。村上刑事は一人慌てているのですが、周りはさほど慌てていない。まあまあ、落ち着けって感じで。

三船敏郎は野生味あふれる役がやっぱりあってるんだよなあ。前作『静かなる決闘』(1949年)のお医者さんとか、今回のちょっと線が細い新米刑事とか合わない。せっかく『醉いどれ天使』(1948年)にスター三船と出会ったのだから、その味を活かしたキャラクター造形にすればいいのに。

黒澤明監督作品ってこれで九作目なのですが、及第点なのがデビュー作の『姿三四郎』と『醉いどれ天使』くらい。ひょっとしたら、当時はすごく良かったのかもしれませんが、経年劣化して今となっては新鮮味がまったくない。やっぱ、黒澤明監督作品は1950年代になってからですねえ。