明石です

野良犬の明石ですのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
4.0
バスで拳銃を盗まれた新米刑事。その銃を使った殺人事件が巷で起きてしまい、辞令を出すも受け入れられず、東京中を歩き回り、盗られた銃を取り戻すべく奮闘することになる。泥臭くて暑苦しい、夏にぴったりの映画でした。日本に「刑事ドラマ」のジャンルを根付かせたとされる記念碑的作品とのことで、同ジャンルに雨粒ほどの関心もない、警察というとそれこそまっさきに犬という言葉を思い浮かべてしまう前世紀の遺物のような思考の私でも手放しで楽しめた。良作。

戦後間もない東京の場末の景色に見入ってしまう(昔読んだ麻雀漫画『哲也』を思い出した)。銃を盗まれ傷心の主人公が、居酒屋のアウトローな女将さんと一緒に、バラック小屋の屋根から空を見上げるシーンの美しさときたら。さすがは画家志望から映画作家に転向した黒沢監督、こういう人々がじかに呼吸してるみたいな何気ない町の風景を撮らせたら超一流だと思う。

三船敏郎の演技は、私が見たことのある映画の中では本作の新米刑事役が一番好き(ルックスだけなら『酔いどれ天使』が最高だけど)。スタイルが素晴らしく良いから、今でいうところのブラッド·ピットみたいに、カチッときめたスーツ姿も、敗残兵みたいに野生味溢れるぼろも似合ってしまう。しかもこんなにギラついてるのに繊細な心の持ち主を顔で演じられる、ズルいなあ。時代劇の時のケバネバしい感じよりこういう実直でリアルな演じ方のほうが素直に好きと思える。

—好きな台詞メモ
「不運は、人間を叩き上げるか押し潰すかのどちらかだ。君は押し潰される方か」
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