アーリー

野良犬のアーリーのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
3.8
2023.10.30

安心安全のトリオ。今度は刑事もの。そのジャンルのスタイルを確立した作品らしい。

久しぶりに場面のワイプ切り替えが登場。
前半がちょっと退屈気味。地道な探索や追跡がずっと描かれる。ただ戦後の色んな事情が垣間見えるような場所が多くあり、黒澤作品の特徴と言えるのかも。千石規子のキャラがまさに時代を生き抜く女像。ほんまに好きやなこの人の声と喋り方。

後半から急に緊張感が増す。三船の「嫌な予感がする」からの志村喬の孤軍奮闘。そこからクライマックスの犯人を追い詰める三船まで息をつかせぬ猛展開。かっこいいなぁ三船敏郎は。志村喬がいるからなんらかの関係性の下の役割になることが多いから、礼儀正しくて真面目な役のイメージが付き出してる。特に今作のキャラは真面目。自分の盗まれた銃で人が傷つき、殺された。自分のせいだと自己嫌悪に陥っていく。またその気持ちでいるからか犯人への同情も見せるように。戦後という時代。裕福がはっきり分かれたそれぞれの暮らしを見ていく中で、悪いことをするのにも理由があることに気づく。悪人はいない。あるのは悪い環境だけだ。それでも志村喬には勧善懲悪を言わせる。正義は正義。悪は悪。悪いことをする奴は悪いに決まってる。そこを深く考えなくていい。そう考えるのは刑事としては正解なのかもしれない。自分が壊れてしまう可能性があるなら。
今思えば「酔いどれ天使」でも志村喬にどんな環境だろうとヤクザはヤクザって言わせてたな。悪いことはしたらあかんという当たり前のこと。どんだけ理由があっても、それに深く共感しても、ダメと言い張れるのは凄いことやと思う。

本当に後半の流れは圧巻。前作の「静かなる決闘」はセリフ聞き取りやすかったのに、今作ではまた聞き取りにくくなってる。なんでなんやろう。
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