すえ

野良犬のすえのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
4.5
記録

トリュフォーとレオ、ベルイマンとマックス・フォン・シドー、フォードとウェイン、そして黒澤と三船、監督が自画像を託した不滅の俳優コンビ。俳優は監督の理想の自分であり、2者は作品を追うごとに成熟してゆく。今の時代、そんな黄金コンビはもう現れないのだろうか。

黒澤は「演出」の映画を撮る、その説にはある程度首肯するが、果たして完全にそうなのだろか。彼は確かに「撮影」の映画も撮れるのだと思う、彼を相対的に優れているという評価に留めるにはやはり惜しいのではないか。

狂犬は真っ直ぐしか見えないと言い、その直後に一直線にどこまでも伸びる線路を映す、ここに黒澤映画の魅力が詰まっている。彼の演出は巧い。

軽いとは言わないが、黒澤映画はやはり根本にどこか楽観主義的な明るさがある。一般にフィルム・ノワールと呼ばれる作品は暗く、不条理に満ちているが、そのような絶望感はこの映画ではそれほど強くない。しかし、画や構図はノワール風でスタイリッシュ、ファム・ファタール的な女性の登場もある。ハードボイルド刑事ものの影響が色濃く出ている秀作、台詞回しがとても良い。

逞しい肉体と力強い運動をする若々しい三船が素晴らしいのはもちろん、三船同様ギラついた雰囲気を見せる志村喬が素晴らしい、それでいて余裕に溢れている。三船×志村は外れないなぁ。

『酔いどれ天使』とは違い姿は見せないが、笠置シヅ子の影が見える。戦後の流行歌(ブギ)や、闇市(実際の闇市!本多猪四郎が三船の代役)など時勢を捉えた1作でもある。

異化効果により寂寥と緊迫感が最大まで極まった終盤のシークェンスは圧巻、三船の手に滴る血を捉えたショットは稀に見る死の匂いを写し取ったもので、かなり喰らった。
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2024,76本目 3/27 DVD
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