つかれぐま

野良犬のつかれぐまのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
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『ゴジラ-1.0』を観て連想した一本。戦後の焼け跡をこれほど生々しくキャプチャーした作品はない。
数十年ぶりに観たが各シーンをしっかり覚えていた。本作をリファーした多くのハリウッド作品が度々リマインドしてくれたおかげか。

ピストルを盗まれた刑事・村上(三船敏郎)が主人公だが、彼の内面描写は少なく、むしろ周辺の警察上司や村上が追う市井の人々が生々しい。復員兵姿で焼け跡を彷徨う村上が、あたかも死に場所を探し回るようにも見える。村上は本当に戦争帰りだ。『ゴジラ-1.0』の敷島のような直接表現こそないが、同じように「死にそこなった」者であり、その姿が生気漲る東京の雑踏と対比されることで哀しみが増す。村上が自分と同じ境遇の犯人に共感するのも無理はなかった。

そんな時に出会うのがベテラン刑事・佐藤(志村喬)。佐藤は村上に何かを教えるわけではないが、村上は佐藤から多くを学び、佐藤の生活にも触れることで生きる気力を見出す。その佐藤が凶弾に倒れたことで、刑事としての本分「悪い奴が悪い」に揺らぎがなくなっていく。

本作の白眉は、ドキュメンタリーかと見紛う戦後焼け跡のロケ。延々と続くモンタージュだが、その迫力に飽きることはない。このパートは助監督の本多猪四郎の功績と聞く。その本多が数年後に監督として『ゴジラ』いわゆる初代ゴジラを撮る。本作と『ゴジラ』そして『ゴジラ-1.0』は、そんな不思議な糸で結ばれているように思えた。