カルダモン

お葬式のカルダモンのレビュー・感想・評価

お葬式(1984年製作の映画)
4.5
ドライな死とウェットな生。
物言わぬ死者を囲んで生者が大騒ぎ。
一歩引いた目線、一歩寄った目線。
毒も愛も等しく描く伊丹十三(51歳)のデビュー作。

家族、友人、恋人、同僚、ご近所さん、大嫌いなあいつ、大好きなあの人、名前も知らない道ゆく人。みんな等しくいつかは死ぬけど、それは今日や明日の話ではなくて、少なくとも今日、明日、明後日、一ヶ月、一年、いや十年後だって元気なはずだと思うともなく思っている。だが死は突然、起こるときには前触れもなく起こるもの。もし今日、家族の誰かが死んでしまったらどんなふうに振る舞うだろう。悲しみで頭が真っ白な状態と並行してまず何をしたらいいのかを考えなくてはならないという状況は、想像するだにメンタルが破壊されそうになる。実際問題まずはどこに連絡したら良いのでしょうね。警察?救急?病院?家族?

頼もしきは葬儀屋。小さなお葬式なんてCMで流れているくらいに、今では大々的にお葬式なんてものをやらなくなり、より予算的にも心情的にもコンパクトになっている時代。それて居てくれるのはありがたい。地域によってはお葬式の文化が根強いところもあるのだろうが、白黒の幕や花輪、デコラティブな霊柩車など、最近はまったく見かけなくなってしまった。

この映画は監督が実際に喪主となった時の体験をもとにしているため、葬式にまつわる一連の行程や各場面での細かすぎるニュアンスがとてもリアル。写実に仕上げるほどに増していく滑稽さ。かと思えばブッ飛んだ表現もしっかりあって。

仰向けになった遺体目線のカメラアングルや、雨の夜に遺体安置所に向かって並走する二台の車が窓越しにサンドイッチを手渡すという無意味なスリリングであるとか、宮本信子が喪服で釣鐘の丸太に乗りながら横揺れしてるなど、なにひとつ物語には関係ないのにムダな迫力。こういう狂ったシーンに出くわすと映画を見て良かったなと思う。