横山ミィ子

月夜の傘の横山ミィ子のレビュー・感想・評価

月夜の傘(1955年製作の映画)
4.5
ロマンティックなタイトル、ピアノやハーモニカで時おり奏でられるクラシックの名曲。名優たちの笑顔に彩られ、牧歌的でのどかに見えるが、描かれるのは強者の論理に振り回される人々、プライバシーのなさなど、田舎暮らしの残酷さでもある。秘密は守られず、本人の意思を無視した世話をされたりと、ユーモラスに描かれているが本当に困っている様子が伝わってくる。

壷井栄といえば『二十四の瞳』だが、その眼差しが見事に感じられたのは、監督、脚本家による同じ思いがあったからではないだろうか。終盤、子供から母親へのセリフが胸を打つ。「お母さんはお父さんの顔色ばかり伺っている。正々堂々と、お父さんと肩を並べて歩こうと思わないの?」と。

公開は1955年、白黒映画で発信されたこの声が、世の中にどれだけアピールしただろうか。女性や子供の声は、可愛らしさや郷愁のイメージの後ろに隠れたまま、読み取られなかったのだろうか。今観ても当時の哀しみを共有できることに、名画の力を感じつつ、残念な気持ちが起こるのも正直なところである。
横山ミィ子

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