アニマル泉

都会のアリスのアニマル泉のレビュー・感想・評価

都会のアリス(1973年製作の映画)
4.2
ヴェンダースの実質上のデビュー作であり、ロードムービー三部作の第一作目。白黒スタンダード16ミリをビスタサイズで修復した。
前半はニューヨーク、後半はオランダが舞台となる。冒頭から縦構図が強調される。橋、車が走る道、高架下などだ。フィリップ(リュディガー・フォーグラー)がエスカレーターに座り込むのも意表をつかれた。フィリップとアリス(イェラ・ロットレンダー)の出会いは回転扉なのが面白い。縦の直線運動と円運動が対比している。二人が取り残されてからが俄然面白い。二人がニューヨークの街を歩く横移動ショットが素晴らしい。ジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」はこの作品から生まれたのは間違いない。ロビー・ミューラーの撮影が冴えている。
ロードムービーは「乗り物」の映画になる。自動車、列車、船、飛行機、面白いのはアムステルダムのモノレールだ。後半はアリスの祖母の家探しになる。
ヴェンダースはロードムービーに活路を見出した。ロードムービーは行き当たりばったりになる。ヴェンダースの演出も即興演出になっていく。だからヴェンダースの作品はエピソードの羅列になる。これが特徴だ。骨太な物語や緻密な構成はない。これは1980年代に活躍した作家たちに共通している。ヴェンダースの「エピソード羅列」カラックスの「断片」ジャームッシュの「短編」いずれも大きな物語は作れない。ゴダールが物語を解体、脱構築した以降の映画の地平線においての戦い方だった。そしてこの地平線はいまだ乗り越えられていない。

全編でセリフは少ない。
旅コラムのライターのフィリップは記事を書けない。ポラロイドカメラでアメリカの風景を撮っている。しかし見える現実を超えられないと苛立つ。ラジオやテレビの番組をくだらないと怒り、カーラジオを蹴飛ばし、モーテルのテレビを破壊する。アリスは母親に捨てられても、警察に保護されても、冷静で大人びて逞しい。アリスが泣く場面はトイレの中でオフにして描かないのが素晴らしい。
金がないロードムービーなので常に「食べる」「泊まる」が問題になる。
フィリップがモーテルのテレビで見る映画はジョン・フォードの「若き日のリンカーン」ラストの列車でフィリップが読む新聞記事は「ジョン・フォード死す」だ。
ラストカットは列車の窓から外を見るフィリップとアリスから大ロングに引いていく空撮である。
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