物語がありそうで無い。フィクションなのに、この2人の結末をドキドキしながら見てしまう。セリフが少ない。説明的なセリフがない。まるで絵画と音楽だけで映画を作っているような。ヴィム・ヴェンダースは言葉を使わなくても言魂が生まれることを証明した。
主人公のフィリップ・ヴィンターは物書きなのに1文字も旅行記を書かず、ポラロイドカメラで写真ばかり撮る。カメラを撮ることは自分を撮ること。見えない自分を撮る。自分を写さずに自分を撮ること。アメリカを旅することで、アリスと旅をすることでフィリップは自分を探している。
本作がモノクロなのは、自分という色、母という神の色を失ったフィリップとアリスの眼に映る世界。
親子でも友情でもなく、叔父と姪のような関係。男は少年から男になるが、女は少女ではなく最初から女。男が子守をしているようで、女(アリス)によって旅が生まれている。女がディレクションしている。この映画は、女に翻弄されエデンの東へ向かうアダムとイヴ。旅は未完だからこそ旅である。