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牡牛座 レーニンの肖像のhorahukiのレビュー・感想・評価

牡牛座 レーニンの肖像(2001年製作の映画)
4.2
記録です。

こんなウルっと来るとは思わなかった…。政治的な主題だったら知識不足でキツいなと思っていたけれど、レーニンを題材にしつつも普遍的な「死に向かう人」を本作は主題としており、仕事・役割・理念・理想・家族等々、自身の生を構成してきた支柱全てから切り離されていく非人化とも言える感覚と、その先に見えてくる「空」に本来性、そして頽落や疎外を削げ落とした生の人間化を見た気がした。

本作では死を前にしているのはタイトル通りレーニン。彼が療養している霧に包まれた邸宅がどこか非現実味を帯びているのは『モレク神』と同様だが、あちらとは異なりすぐに画面はレーニンを捉える。その後も長回しはレーニンを捉え続けるが、彼中心に物事は回っているにも関わらず、主役は画面中央に陣取らずにどこか世界の中に埋没するかのよう。歩くこともままならず認知症も進み、看病する者たちの態度にもレーニンの求心力故の奉仕ではなく、(嫌々とはいかないまでも)どこか義務的というか課せられた仕事としての性格を強く感じる。彼が口にする理念はこの場では悲しくも頽落的に映り、認知症により忘れゆくこともまたそれを後押しし本来性を際立たせる装置としての役割を果たす。家族も仲間も去り、過去や未来からも切り離され、思い出も希望も忘れ、ただ現在のみを漂う。死の先駆、そして帰属先を無くした彼だからこそ見えてきた「空」。その混じり気のない直接性故に雲が晴れるわけで、非常にサルトル的だと感じた。

そうであるならば、雲海のような非人間的空間を舞台にしていた『モレク神』に対して、緑に囲まれた場所を舞台としたことにも意図を見出せる。対面する木々との対称と対比、レーニンを題材としつつも描かれるのは普遍であって、それを還元するためのレーニンという素材選択は覚束ない知識故に判断し難いけれど、振り幅の大きさが還元の振り幅も増大させているのは間違いなく、だからこそ響いたんだろうなって思った。
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