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牡牛座 レーニンの肖像のyadokariのレビュー・感想・評価

牡牛座 レーニンの肖像(2001年製作の映画)
4.0
ソクーロフの「権力者四部作」の二作目。晩年のレーニンの傲慢ぶりが描かれているが、政治劇というより家庭劇になっているのがポイントか?こういう頑固爺は日本にもいそうだ。足が悪く自分の思うどおりにならない。付きそう妹や妻を困らせる手に負えない病人の介抱に追われる様子。政治的なシーンがあるとすればスターリンの見舞いか?その後でスターリンを選出した話題になるのだが、どうして選んだのかもボケてしまったのかわからない。ただあのグルジア人かみたいなことを言う。

家庭の暴君と化したレーニンはソ連を暗示しているのかもしれない。ただこれはチェーホフのような悲喜劇になっていると思う。レーニンも哀れな爺さんとして描かれていてような。自分で自由に出来ないからステッキを持って暴れる。食事のシーンでシャンデリアを杖で壊して食卓をめちゃめちゃにし、最後は看護人に囲まれて風呂場に連れて行かれる。病者そのものの扱いだった。

印象的なシーンでは車椅子で庭の散歩に妹が連れ出すのだが、中央委員会から電話があり妹が広い庭を懸命に走りながら戻っていく。置き去りにされるレーニン。それは先日観た『孤独な声』でもあったシーンだった。レーニンの孤独をも描いているのだと思った。

権力四部作全部見たけど、日本人には天皇の敗戦後の姿を描いた『太陽』が面白いし、わかりやすいと思う。そこでも天皇を独裁者というよりは、日本軍によって担ぎ上げられ、敗戦になると米軍に担ぎ上げられる様子が描かれている。その部分は喜劇として、米兵から『独裁者』のチャップリンのような扱いを受けるのだった。ただ皇后の天皇に対するいたわりが愛溢れるドラマとしての悲劇になっている映画である。『太陽』という題も皇后に取っての太陽なのだろう。これはイッセイ尾形の天皇と桃井かおりの皇后の演技が素晴らしくいいのだ。ソクーロフを好きになった映画でもある。

『牡牛座』に戻るとそんなレーニンをも見捨てない妹のケアの姿だろうか?どこか日本の老人介護を想像してしまう。チェーホフ的な絶望の映画だ。(2023年6月21日)
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