O次郎

父子鷹のO次郎のレビュー・感想・評価

父子鷹(1956年製作の映画)
3.6
時代劇スター市川右太衛門さんと、その実子である少年期の北大路欣也さんとの共演作であり、北大路欣也さんの映画初出演作、という記念碑的意味合いの強い作品。当時13歳の欣也さんはなかなかの美少年ながら既に後年の目元のギラつきの片鱗を感じる。

勝海舟という非凡な才と努力の人の誕生背景としての物語で、実質的には彼の父である勝小吉を演じる右太衛門さんが主演。さらにその父親は志村喬さん、兄は月形龍之介さん、という錚々たる顔ぶれ。

ストーリー運びとしては、『男はつらいよ』の寅さんのごとく曲がったことが大嫌いな不器用な主人公が、士官を叶えるための賄賂提供や接待強要という現実に耐えられず、貧乏暮らしの中で一族の悲願である立身出世をその子に託す、というもの。
今だったら子どもの側が「勝手に親の都合を子どもに押し付けるな!」とブチ切れる展開になりそうなもんだが、そこは時代が時代、ということで。
今観るとあまりにも如何にもなお涙頂戴展開だが、それを100分間観させるのはやはり名優在ってのものか。

それにしても、今井正監督の『武士道残酷物語』みたくことさら武士の世界の醜悪さ・欺瞞を曝す題材ではないのに、現代のごとく強者に媚びへつらって生きねばならない中間管理職の悲哀の描写の数々にはただただ溜め息。
壮年期の市川右太衛門さんは、見事にでっぷりとした美丈夫。終盤、将軍家嫡男の遊び相手に抜擢された我が息子の今後を案じてザンバラ髪にふんどし一丁で井戸水を浴びて読経するフォルムはなんともどっぷりでっぷりだが、さすがの貫禄でカッコよく見える。「恰幅のいい男前」という枠は現代では無いカテゴリよなぁ...。

不肖の息子の青臭い正義を暖かく見守る志村喬さんに、一族の名声の足を引っ張る弟を疎ましく思う一方で最後には救いの手を差し伸べる月形龍之介さん。話がストレートな分、キャスティングの妙味を味わうが吉。
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