くもすけ

彼女たちの舞台のくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

彼女たちの舞台(1988年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

画面がエレガントで繊細ながら、下宿と塾を電車で往復するばかりで閉塞感も感じる。これは彼女たちの通うスクールの方針の結果のようだ。
コンスタンス(ビュル)の教える演技スクールではバイト禁止。これは24時間演技のことだけ考えてるためで、結果彼女たちはいくつも役を演じている。それがある事件をきっかけに先生と仲間を失って、という話。

それで肝心の事件のほうだが、よくわからない。のちに明らかになる通り、3年前刑務所で手に入れたリュカの手紙から続く弾劾をめぐる話のようだ。
インタビューでリヴェットが名前を上げている大統領ジスカールが霊感源か?映画に関係ありそうな1979年発端の汚職が2つ。
○仏軍による無血革命で国を追われたボカサ1世が、政権奪還の協力を取り付けられなかったためジスカールへの莫大な贈賄工作を暴露
○国営石油会社アキテーヌの詐欺隠蔽にジスカールの側近が関与し、会計文書を暴露

といっても事件の経緯を説明するのは、印刷技師にして刑事で疑り深い聖トマ(ス)という、これまた名前をいくつも持つ胡散臭い男。それでセシルの恋人ルカの容疑を、あるときはIDの偽造、あるときはテロリスト、あるときは幻の名画の転売屋、と名指して要領を得ない。
一人一人面談するのでちとたるくもあり、また4人のほうでも証言を突き合わせて対策したり、家に入れないようにしたりせず、割と自由に出入りさせている。もともとクロードが美しきおみ足で引き入れたせいなのだが、その彼女も別にトマがどう振る舞おうが構わない。

口八丁のトマが最後に手を出すのがルシア。黒い瞳と髪を持ち、部屋にはラファエロの「聖ゲオルギウスとドラゴン」と怪しい小瓶があるだけ。ポルトガルからやってきたせいで少し寡黙のようだが、扉の影から現れて「話は聞かせてもらった」と据わった目で鍵の行方を語って驚かす。
その鍵の在処を探り当てる夜のシーンもおかしくて、アンナが鼠だというその物音が全くそうは聞こえない。ルシアは謎めいた言葉を呟きながら手をかざすと鍵がもたらされる。

今見るとグァダニーノ「サスピリア」がだぶる。女しかいなくて性の境界も曖昧。それも4人の女優はアイルランド、イエメン、など各々出自がばらばらで、どの国も紛争やテロを抱えている。ポルトガルもつい74年に革命が起きたばかり。

ルシアを演じたInês de Medeirosは1974カーネーション革命で家族とともにリスボンから移住を決めた芸能一家の出だそうな。彼女の宗派が何だったのかはわからないが、劇中異端を暗示する符牒が張り巡らせている。

彼女の語る亡霊というのが何を指すのか。参考までにリヴェットによれば「セリーヌ」はファントム、「デュエル」は女神、Marie and Julien (2003)はゴーストと分けられるそうな。
https://mubi.com/notebook/posts/the-game

全く余談ながら、Inêsは2009年社会党議員となったのち地方選挙で勝利しアルマダ市長に就任し、現在ニ期目だそうな。
映画の原題La Bande des quatreは直訳すると四人組。定冠詞抜くと文革四人組のことを指すらしい。彼女がやさしい政治家であることを祈るばかり。もう映画は出てないみたいだが、かつてはペドロ・コスタのに出たり、自分で製作もしていたようだ
以下ブログ参照
https://plaza.rakuten.co.jp/karolkarol/diary/200802050000/?scid=wi_blg_amp_diary_next

とにかく一度見たきりではよくわからない。劇中彼女たちが演じているのはマリヴォー「二重の不実」だが、ラシーヌの「エステル」、コルネイユなど幾重にも重なるテキストがあるようだ。以下ブログ参照
https://furukawa.exblog.jp/7225345/