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彼女たちの舞台のT0Tのレビュー・感想・評価

彼女たちの舞台(1988年製作の映画)
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2024.5.9 36-47

劇中劇の構造をとるが、劇と劇が連続する。『地に堕ちた愛』にも見られた同様の、劇中劇の連続性の仕組みが見られる。

彼女たちの舞台は、字義通りの「舞台」と彼女たちの生活する家の双方を指す。「舞台」の外で彼女たちを取り巻く事件によって、彼女たちの「舞台」上の演劇が侵犯される。セシルを守るために彼女たちは、司法警察の男から大事な鍵を守り、逮捕された先生を待つために稽古を続ける。要は彼女たちの舞台とは、中と外の区別をつけることのできない全体を指す。

しかし、面白い点は、先生の演技の付け方である。演出を施す先生は、彼女たちの演技に対して、「自分」を消し、テキスト上のキャラクターに委ねることを繰り返し注意する。舞台を伝う感情は、役者の感情ではなく、あくまでテキスト、キャラクターの感情である。だからこそ、感情を伝えるためにはテキストに自信を委ねなければならず、故に自身の状況から切り離して演劇に本気にならなければならない。しかしそのように述べる先生もリュカを匿い事件に関与していたために逮捕され、演劇から締め出されてしまう。

良いな、と思うのは、切り返しを使わないカメラだ。人と人が話す時、人がいる空間と動きの配置を工夫すれば切り返し入らないのか。これが、生活から舞台へのシームレスな繋ぎ、あるいは、生活自体がある種の演劇であることを見せている。特に初めのカフェから稽古場に戻り、演劇が始まるシーンは、すごい。

気になるのは、時節挿し挟まる「電車からの車窓」のシーンである。最後の場面は特に挟む意味がわからなかった。あの街の景色が横へと流れるイメージは、なぜ必要なのか?シーンが切り替わる幕なのか?最後は、あの電車に乗って誰かがやってくるのか?
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