ニシ

朝やけの詩のニシのレビュー・感想・評価

朝やけの詩(1973年製作の映画)
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傑作。人が土地に画面に根付いていく。

ただまず苦手だったところから挙げると、興奮しないカットが多かった(興奮するカットもあったけど)。人の顔に寄るにしろ2人が会話するにもそう、微妙にむず痒いカットが多かった印象。溝口ならもっと良かったんだろうかなんて思った。

物語の根幹を成すのがやはり関根恵子さんで彼女がまず最初に自然の中で自由に泳ぎ回るのなんて最高。途中に一回母親と都会のデパートの屋上に行くんだけど、その時に着ているワンピース、そして髪の毛を下ろした髪型は全く似合わない、言ってしまえばブサイクだ(おそらくそう見えるよう撮影している)。

彼女はデパートの次のシーンで丸太を切り持ち上げる関根恵子に素早く変貌する。その健康的な汗、ツヤのある顔、褐色の肌、軽装の作業着、全てがかっこよく美しい。北大路欣也との会話のカットバックでその美しさを全面に出してくれる。

後半は作り上げた自然が崩壊していく様を見ていくのだが仲代がその場に居続けようとする理由は、自然が好きだからではなくそこにいたいからだと思う。最後の場面で「家」を壊されて涙を流す仲代はメリットデメリット関係なくやりたいことをやることができる「家」に想いを馳せている。

仲代は自分が放火したと、北大路も自分が放火した(これは本当かもしれない)と、仲代は最後に五味さんのところで野菜作るなんて嘘っぱちな映画だが、定住していた人達が越境者にこれからなっていく姿を見て惚れ惚れしてしまう。
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