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2015.05

この作品はとにかく関根恵子(現・高橋恵子)に尽きる。彼女の美しき野性が存分に発揮された作品で、彼女にとっても生涯無二の演技を披露している。実は、これも吉永小百合主演の作品として、「おお牧場は緑」というタイトルで、以前から熊井啓監督が温めていた企画で、クランクイン寸前に彼女には合わないということで中止となった作品だという。

この作品も、もし吉永小百合が演じていたとしたら、まったく違うものになっていただろう。それほど関根恵子の存在感はその作品のなかで重要な位置を占めている。もちろん冒頭から鮮烈な印象を放つ水浴シーンはあたりさわりのものになっていたかもしないし(いや、そもそもなかったかもしれない)、あのまっすぐな関根恵子の視線からは、かつての吉永が持っていた「キューポラのある街」の頃の無垢な眼差しを感じる。

そのイノセントな関根の演技と信州のまっさらな自然がシンクロして、時代を先取りして、強く環境保護を訴える作品となっている。関根の存在は手つかずの自然そのものであるし、彼女の存在そのものがこの作品のテーマに等しい。これほど、ひとつの作品のテーマを身を持って体現する女優の演技は、後にも先にも自分は観たことがない。

そして、関根恵子という素材を得て、作品として見事に結晶させた、社会派監督・熊井啓の手腕も称えられるべきであろう。前年の「忍ぶ川」では、高い評価を得た熊井監督だったが、カラーで撮影されたこの作品では、失敗作とも言われるほどの低い評価を受けた。確かに、シーンシーンのつなぎに、カラーで再現された自然の描写がモンタージュされると、あまりにも思い入れが強いためか、ドラマそのものが中断される部分も多々ある。

その微妙な「間」も含めて、自分は評価するのだが、前年に「忍ぶ川」に賛辞を送った人たちには、その余裕はなかったようだ。もちろん、今回、再観賞だが、作品から受けるフレッシュなイメージは変わらない。あのまま、関根恵子が順調に女優を続けていたなら、どんな演技者になっていただろうかと、遠い昔に思いを馳せたりもした。

傑作。人が土地に画面に根付いていく。

ただまず苦手だったところから挙げると、興奮しないカットが多かった（興奮するカットもあったけど）。人の顔に寄るにしろ２人が会話するにもそう、微妙にむず痒いカットが多かった印象。溝口ならもっと良かったんだろうかなんて思った。

物語の根幹を成すのがやはり関根恵子さんで彼女がまず最初に自然の中で自由に泳ぎ回るのなんて最高。途中に一回母親と都会のデパートの屋上に行くんだけど、その時に着ているワンピース、そして髪の毛を下ろした髪型は全く似合わない、言ってしまえばブサイクだ（おそらくそう見えるよう撮影している）。

彼女はデパートの次のシーンで丸太を切り持ち上げる関根恵子に素早く変貌する。その健康的な汗、ツヤのある顔、褐色の肌、軽装の作業着、全てがかっこよく美しい。北大路欣也との会話のカットバックでその美しさを全面に出してくれる。

後半は作り上げた自然が崩壊していく様を見ていくのだが仲代がその場に居続けようとする理由は、自然が好きだからではなくそこにいたいからだと思う。最後の場面で「家」を壊されて涙を流す仲代はメリットデメリット関係なくやりたいことをやることができる「家」に想いを馳せている。

仲代は自分が放火したと、北大路も自分が放火した（これは本当かもしれない）と、仲代は最後に五味さんのところで野菜作るなんて嘘っぱちな映画だが、定住していた人達が越境者にこれからなっていく姿を見て惚れ惚れしてしまう。