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エースをねらえ! 劇場版のkuronoriのレビュー・感想・評価

エースをねらえ! 劇場版(1979年製作の映画)
3.0
出崎統、杉野昭夫コンビの最高傑作との呼び声高いことは知ってましたが、未見でした。
もともと、出崎監督は「ガンバの冒険」出崎杉野コンビは「宝島」が大好きで、テレビに齧りついて観てました。
特に「宝島」における悪役ジョン・シルバーは、全篇の事実上の主役と化すほど魅力的な人間として描かれており、最終回のラストカットなんかゾクゾクきたのを覚えてます(笑)。

「エースをねらえ!」の原作コミックは1973年から1975年の連載で一旦完結してます。
テレビアニメ第一作(いわゆる『旧・エース』)の放送が1973年から1974年。原作の途中までで終了しています。これが出崎杉野コンビが参加したシリーズです。放送当時は人気が出ずに打ち切りになったのですが、この頃によくあるパターンで再放送で人気に火が付きます。
その「旧・エース」再放送の人気を受けて、1978年から原作コミックの第二部が開始します。これは1980年まで連載されます。
それに少し遅れて同じ1978年から「新・エースをねらえ!」というタイトルで、比較的原作に忠実にリメイクしたTVアニメシリーズがはじまります。こちらは原作の第一部を描ききって、1979年に終わります。これには出崎杉野コンビは参加してません。
そして、「新・エース」の放送終了にあわせて1979年に公開された劇場版が本作です。「旧・エース」スタッフの出崎杉野コンビで、原作第一部全体を劇場版映画として完全書き起こしで作り上げたものです。
ストーリーの枝葉を払い、根幹である「主人公、岡ひろみの成長」という部分にのみ焦点をあて、大胆な省略とスピーディーな演出で、長い話を90分にまとめてあります。これはかえって今の観客に合う展開の早さだと思います。

作中でも触れられますが、当時の女子テニスはクリス・エバートのようなクレバーで技巧的なテニスから、キング夫人のようなパワーとスピードで有無を言わせず押し切るテニスへと変革していく過程でした。常にエースを狙っていくテニスですね。主人公のモデルは多分キング夫人だと思います。

でも正直、ちょっと期待しすぎたのでしょう。出崎杉野コンビの最高傑作!と構えすぎた。
アニメは進歩したんだねぇ。今見ると絵的に見劣りが…。出崎杉野コンビのクォリティの高さに信頼があった私にはちょっとショックでした。
これは決して本作のレベルが低いわけではありません。当時のアニメーションのレベルからしたらかなりの高品質だったんですよ。その後、アニメーション全体の「絵的な」クォリティが随分上がったので、相対的に見劣りするわけですね。
なにしろ1970年代。まだジブリも無い頃なんだ。「未来少年コナン」をやってた頃ですな…。
止め絵や透過光による劇的演出は、「動き」という、アニメのアニメである拠って立つところの進化と比較すると、やはり「枝葉」的な部分なのか…ちょっと残念です。

「エースをねらえ!」には、魔球は出てきません。比較的リアルな世界を描いています。でも、出崎監督のドラマチックな演出はファンタジー的な世界にこそあっているのではないのでしょうか?

あと女子高生言葉の風化していること…。「翔んだカップル」の「理由を述べよ、100文字以内!」がドンピシャな世代の私としては、チクッと痛かった(笑)。
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