オレオ

スラムドッグ$ミリオネアのオレオのレビュー・感想・評価

スラムドッグ$ミリオネア(2008年製作の映画)
3.3
ジャマールの過去と現在と未来とが、ミリオネアという一つの交差点に集結していく様は、ストーリーの構成として大変美しい。
これは一人の男のサクセスストーリーであるが、決して彼一人の物語ではない。社会の荒波に揉まれ、肉親に裏切られ、恋人と離れ、さまざまな犠牲を払い、また時に強いられ、そういうふうに勝ち得た栄光だからこそ、観客は大きなカタルシスを得るのだ。

ただし、そのカタルシスが私にとってはどこか中途半端なものに写ってしまった。
例えばマフィア。なにやら悪いことを企てていそうな曲者感は観る側にも伝わってくるのだが、テレビを見て勝手に癇癪を起こしたり、女性に手を上げたり、劇中で働いた悪事といえばその程度で、兄やラティカの置かれた危機的状況が切迫したものとして伝わってこない。
あるいは、強烈な拷問シーンで始まる本作であるが、そんなのは最初だけで、後のシーンは警官とジャマールがコーヒーを飲んでテレビを見ながら歓談しているだけである。
警官や司会者含め、周りの人がジャマールのことを信じ、彼を応援するようになっていく過程がすっぽり抜けていて、ところどころの場面に描写的飛躍がある。

このように、サクセスストーリーの枠組み自体は素晴らしいのに、人物やその周辺の書き込みが圧倒的に足りない。
冗談めかしたようなラストのダンスシーンも、どこか真面目さを失ってしまったようで、観ていて寒い(このシーンの受け取り方は国によってさまざまだとは思います)。

傑作であることは間違いないが、自分にとっては、どこか足りない作品という評価に落ち着いてしまった。
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