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春の珍事のMOCOのレビュー・感想・評価

春の珍事(1949年製作の映画)
4.0
「居場所も何をしてるかも知らせずにずっと心配させる気?
私に何も言えないのなら別れましょう」(デビー)
「わかったよ、まず君に言っとくべきだった。野球選手をしている」(バーノン)
「冗談はよして、ごまかしてばかり・・・」
「ケリーは僕なんだ。ケリーの僕が今日投げるんだ」
「なら私はマタ・ハリよ。あなたの秘密を売ってやる!」

 大学の化学講師バーノン・シンプソン(レイ・ミランド)は生徒のデビー・グリーンリーフと結婚したいのですが、デビーの父親は大学の総長です。
 総長は大学の研究室を維持するために寄付をしてくれる人探しで忙しいのですが、娘のデビーが想いを寄せるパーノンのことも気になっています。もっともデビーの母親は娘の恋愛相手には不満がある様子です。

 さほど稼ぎのないバーノンは大学の研究室で、害虫を木材から除去する薬を開発し企業と契約を結べさえすれば安定した収入が見込めるところまできた矢先、キャンパスで遊ぶ学生の野球ボールが窓を割り、実験中の機材を破壊して、長い時間をかけて抽出した薬液を台無しにされてしまいます。

 婚約どころではなくなってしまったバーノンなのですが、偶然混ざりあった薬液に浸ったボールが木材を避けることに気がつき、トレイに溜まった薬液をビンに詰めると、学期中にも関わらず総長には実験のため長期の休暇と休講を申し入れ、デビーには何も告げずに大学を後にします。
 バーノンは熱心な野球ファンでこの薬液を使って大リーグのピッチャーとしてデビューを目論見ます。

 セントルイス(野球チーム)のオーナーのストーンに直接自分を売り込んだバーノンは一勝する毎に1,000ドルの報酬を要求し、シーズン途中からの登板で30勝(1シーズンに30勝した投手はいない)以上を約束します。
 最初は猛反対だったドーラン監督はオーナーの指示で即日登録、モンク・ラニガン捕手とバッテリーを組ませ即日登板させると三振の山を築き、本名を名乗れないバーノンは『ケリー』という名前で契約を交わします。

 ケリーはクラブの手のひらにあたるところに小さな穴を開け、そこに薬液を染み込ませた綿を潜ませて、一球投げる毎にボールの表面に薬液を塗っていたのです。

 ラニガンはケリーの専属捕手になり遠征時の宿泊も同室になります。ケニーは一度だけラニガンにビン詰めの薬液のことを聞かれ「整髪料だ」とごまかします。

 バーノンは最初の一勝で得た報酬で婚約指輪を購入しデビーに送ります。
 バーノンは直ぐにチームの中心選手になり身体の大きな選手と行動を共にすることがあり、デビーの母親に目撃されてしまいます。その頃新聞を賑わしていたのは連日のように起こる銀行強盗団のニュース、なにも連絡してこないバーノンはデビーの一家の間ではいつしか強盗の一人ではないかと・・・。
 デビーは町で偶然バーノンに出会いバーノンの口から真相を聞かされるのですが、からかわれていると思い込みろくに話を聞かず帰ってしまいます。
 しかし新聞の写真を確認して、球場でケニーを観察したデビーはバーノンの話を確信し、球場の選手通用口でケニーを待っていたとき、ラニガンに声を掛けられます。同室のラニガンは写真でデビーの顔を毎日のように見ていたのです。ラニガンからケニーは知り合いから隠れて野球をしてるから球場でこっそりケニーを応援して欲しいと頼まれ、ケニーは家族に内緒でセントルイスに出掛けるようになります。
 
 チームはケニーのお陰で順調に勝ち進みワールドシリーズに突入、チームの優勝は最終戦までもつれ込むのですが、登板のその朝ケニーは薬液が殆どなくなっていることに驚きます。

 偶然の産物の薬液は二度と作ることができないのですが、ラニガンは整髪料と思い込んで使っていて、更に別に保管してあったもう一本は髪の薄いドーランに渡されていたのです。
 そしてドーランが所持する一本は目の前でドーランが手を滑らせ・・・。

 ケニーは今までになく打ち込まれることになり・・・。


 かって日本人の男が大人も子供も熱狂したスポ根漫画『巨人の星』の大リーグボール3号のネタ元の映画です。
 バットを避ける魔球は投げれば投げるほど星飛馬の選手生命を奪いやがて「ピシッ」という音と共に放った最後の一球は野球生命に終止符を打つ魔の魔球だったのですが『春の珍事』は薬が切れた時が選手生命の終わりの時。


 残り少ない薬を吸い込んでいた綿はカサカサになり効力を失うのですが、意外なところに僅かな薬液が見つかります。

 チームをワールドシリーズまで引っ張ったケニーが突然姿を消してファンは納得するのか?そんな心配をよそに、ケニーの最後の一球は飛馬の一球と同じように音をたて・・・。


 野球の選手生命を失い、ほったらかしにしていた講師の職は受け入れられるあてもなく、収入の見込みがなくなり、結婚ももう・・・。
 傷心のバーノンは行くところもなく、列車で町に帰ってきます。

「お母さん、絶対に秘密が守れる?・・・」シーズンの終わりの頃、デビーが我慢できなくなって母に話した「彼氏の自慢話」はいつの間にか「秘密の伝言ゲーム」となり、町中に広がっていて・・・。


 いつ正体がバレてしまうのか?いつ薬がなくなってしまうのか?・・・ドキドキした展開のあと、ほのぼのとしたエンディングが待っていました。

 ずっと探していた1949年のコメディ映画は本当に楽しませてくれました。監督のロイド・ベーコンはチャールズ・チャップリンの映画に数多く出演しており、笑いのツボを良く知っていたのですね。
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