留

残雪の留のレビュー・感想・評価

残雪(1968年製作の映画)
1.3
冬ソナ ルーツか?

映画そのものはしょうもない出来だがいろんなことを考えさせる面白いものではあった。
なぜ舟木一夫主演でこういった悲恋、心中ものが制作され続けたのか?当たったからだ。
ということは大衆が求めていたのだ。1960年代高度成長期の日本でも、この世で幸せになれない男女は死んで、あの世で幸せになろうという念仏思想がまだ強く根付いていたのだろう。
それと舟木一夫のキャラクター、不健康そうで幽霊顔、やせ細った貧弱な体からは、不幸に耐え逆境に歯向かって打ち勝っていくという強靭な役は似合わない。

やたらと戦争の影がちらつく。「戦争になったらそれでおしまいだ」とか「戦争に行かされて」とか「水爆が頭の上に落される」とか。果ては物乞いをする傷痍軍人の姿まであらわに描写される。父親が戦死したと信じている松原智恵子は金を与える。手首から先は金属の義手で大正琴?かなんか弾く姿。日活青春映画でこういうものが描かれていたとは!

血をわけた兄と妹がそれと知らずに愛し合うようになり雪山で心中する。兄妹かも?と疑い始める経過は「冬のソナタ」のルーツなのか?
母親が爆死して、はい回っている10ヶ月の赤ちゃんや、それを拾って自分の娘として育てるシチュエーション、ちょっと納得しがたいが心中しちゃうってのがどうもねえ。
父親の山形勲はどうなるの?この父親、実の娘と分かった時点でもうちょいなんとかするだろうに!

それ以上に日本の愛し合う兄妹は心中、ワーグナーの《ヴァルキューレ》ジークムントとジークリンデは納得ずくで子をなす。
トーマス・マンの《選ばれし人》(ハルトマン・フォン・アウエのグレゴリウス伝説)でも双子の兄妹は納得ずくで愛し合う。ヨーロッパとアジアの違いというより、あちらは禁忌を犯すことによって超人を生み出そうということか。
まあ、この映画のように、なにも死ななくてもと思うよ。
それも薬まで飲んで雪山を二人で手をつないで歩いていき、雪崩で雪に埋もれてしまうって悲惨過ぎ。
「残雪」じゃなく「雪崩」というタイトルにすりゃいいのに。

▼オープニングの主題歌、舟木一夫の歌い方が強烈にいやらしいが、さらにいやらしいのが妹役の小橋玲子のセリフ回し。俺があんな妹の兄貴だったら張り倒してやるぜ!

炭焼きの娘にまったく見えない、ずっと標準語の松原智恵子はただのおニンギョさん。実在感まったくない。学生服に作業着羽織ってる舟木一夫も建築を学んでる大学生には見えないけど。

1960年代の懐かしいもの
緑の山手線、大きなビーズのすだれ(うちにもかかってたが最近は全く見なくなった)、トースターと食パンを入れるプラスチックのケース、サントリーレッドの大瓶、「山の娘 ロザリア」
留